はかしゅうくよう「ルカなんて嫌いだ」
なぜこんな事になってしまったんだろう。
「そうかい、ならばもう私に話しかけないでくれ」
売り言葉に買い言葉。皮肉と嫌味を込めたそれがもたらした結果は泣き出しそうな彼の顔。
赤い瞳を大きく見開き口をキツく引き結んだアンドルー。何か言いたげに開いた口は、何も発さず飲み込み、私に背を向けて部屋を出て行ってしまった。一緒に居たビクターがオロオロと彼の背中を目で追い、次いで私の方を見たが頭を下げて見えなくなったアンドルーを追いかけて行った。
残された私はただそこに立ち尽くす事しか出来なかった。自分で言った言葉と、彼から発せられた言葉の棘が思ったよりも深く刺さり、その場に縫い止められているようだった。
何時ものやり取りだった。作業に集中し過ぎて部屋に引き篭もり食事を取り忘れる私。
それを心配したアンドルーが呼びに来る。呼んでも返事が無い時は食事を持って来てくれる。
何時もの光景。だけど、今回は違かった。ゲームが重なっての疲労、作業による睡眠不足、気が立っていた。
「ルカ、少しでもいいから食べてくれ」
それから数日、アンドルーと私は並行線だった。ゲームは被らないが食堂や廊下で顔を合わせても喋らないし、彼があからさまに顔を背けて目も合わせてくれない。まだ怒りは収まっていないらしい。私としては勢いで言ってしまった発言を早く謝罪したい。 彼に傷付く言葉を言わせた原因は私にある。ならば謝るのは私の方からだろう。だが彼の態度が謝らせてくれない。
電気配線を手伝って、とトレイシーに連れられてきた彼女の作業場。向かい合いながら作業を手伝っていたが、この作業は彼女一人でも出来るものだった。指示された電気配線がこの間彼女に教えたばかりの作業だった。なぜだろう?と疑問を浮かべると、休憩しようと早々に終えた彼女が作業台の上を片しお茶の準備をし始めた。
「まだ仲直りしてないの?」
「……謝る機会が無くてね」
「早く謝らないといつまでこのままだよ」
「わかってる」
「僕ここ最近二人が喋ってるの見て無いんだけど」
どうやら彼女は、私とアンドルーの不穏な空気を見兼ねて心配してくれたらしい。
用意してくれた紅茶に口をつけると眉が寄る。普段はボンボンが入れてくれるが、今日はいないのだろう。彼女の紅茶は渋さが勝っていて、眠気を覚ますには丁度良いが味わいには難がある。機械を弄っている時の器用さを、もう少しはこちらに回してもいいのではないだろうか。
「拗れる前に仲直りしなよ」
それはもう無理かもしれない。
作り笑顔だけ返しておいた。
部屋に戻り荒れ果てた自分の作業場に突っ伏す。何も進まない。