湿った岩の裏の「あ、渡り鳥!」
その小さな生き物は言った
なんでそんなことを言うのか分からなかった
「真ん中を先頭に、綺麗な角を作って飛んでいきますね。すごいな」
それは多分俺に話しかけているのだろう
俺はその言葉を無視し(なんでだろう、受け取り難かった)
引いた左腕を強く前に突き出した
どん、と小さな生き物は突き飛ばされ、倒れた
「あいたた…」
「油断するからだ。もう一度」
「はい」
広くて乾いた白い空の下
荒野にただ一つ動く俺らは
そこだけ生きているように
小さな生き物は、泥と血と乾燥にひび割れた頬を動かしながら
また「あ、虫が」とか「ほら、雲が肉まんのようですよ」とか「見てください、昨日なかった植物の芽が」とか
乾いた大地に投げかける
589