夢野、山田家へ1
夢野幻太郎はもうじき死ぬ。
丸めた原稿用紙と付箋だらけの資料に塗れて死ぬ。エナジードリンクやブラックコーヒーの空き缶たちに囲まれて死ぬ。重厚な書生服に身を包み、老若から男女にまで誉めそやされてきた玉貌を苦痛に歪ませたまま、夢野幻太郎は死んでいく。
もう師走が近いというのに身体が燃えるように熱いのだ。それなのに冷や汗が湧き出て止まらない。全身がぐっしょりと濡れている心地がいつまでもしていて気色が悪い。きっと布団を通り越して畳にまで染みになっていることだろう。
水が飲みたい、と何度思ったか知れない。しかし起き上がることはおろか、幻太郎には指先一本動かし方が分からない。
このような状態になってから、夢と思わしき映像が絶え間なく幻太郎の目の奥に流れていた。歯の抜けたオジサン達が、サンバの格好をしてマカデミアクッキーを手に踊り狂っていた。行ったかどうかすら覚えていない大学の同期から、トスカーナに伊勢エビ釣りに行こうぜ!と誘われた。乱数が創る服によく似た色彩に殴られ続けるような感覚に眩暈がした。
30000