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    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    2018/01/17 過去作投稿
    「今を共に」
    ---
    「花影の断崖にて」のドライバー達の話と、その数日後の話。
    カグメレです。
    続き物ですので、先に「花影の断崖にて」を読んで頂けると分かりやすいかと思います。(2022/07/06)

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    今を共にインヴィディア首都、フォンス・マイム。
    昼下がり、レックスとトラ、ビャッコはその街に並ぶ店々で旅の物資の調達を進めていた。
    「もふぅ……、インヴィディアはサルベージが盛んじゃないから、ハナに使えるジャンクパーツが全然売ってないもー!」
    インヴィディアでの買い物はあまり楽しめないのか、トラはつまらなさそうに愚痴を言いながらレックスと並んで歩いている。その後ろのビャッコはそんなトラを宥めるように声をかけた。
    「まあまあ、そう仰らず。レックス様、食料はこのくらい買えば十分かと思いますが、いかがですか?」
    レックスはビャッコの言葉に頷きながら、辺りをキョロキョロと見回した。
    「うん、オレもそう思う。装備もあらかた揃ったし、あとはジークとメレフが戻ってくれば……、あ」
    レックスは個人的に必要な物を買いに行く、と分かれていったうちの一人である、メレフの姿を見つける。メレフはコスメショップの前で立ち止まり何か購入しているところだったようだ。レックスはメレフの方へと歩み寄り、彼女に呼びかけた。
    「いたいた、メレフ。何か買ってたの?」
    「レックス」
    聞き慣れた呼び声にメレフが振り返る。
    「何、大したものではない。私とカグツチの化粧品だ」
    そう答えるとメレフは再び店員の方へと向き直った。レックス達はその様子をぼんやりと眺める。化粧品とは無縁なレックスにはそれが何なのかはよく分からなかったが、メレフは何やら缶のようなものとそれより小さなものを二つずつ購入したようだ。その内のこれとこれに包装を頼めるか、と彼女は店員に依頼している。
    「……?それ、包装するのか?」
    「ああ、これは頼まれたものではないのでな」
    「ボン!待たせたなー……って、もう皆集まっとったんかい」
    そこに一行が固まっているのを見つけたジークも戻ってきた。ジークもレックス達の眺めていたメレフの購入物を覗き込む。
    「ん、メレフ何やそれ?」
    「これは贈る物だ。もうすぐ私とカグツチが同調した日で――……」
    ジークとトラはその言葉に意外だと言わんばかりに声を上げる。
    「メレフあ、あんさん、同調した日付なんて覚えとんのか」
    「すっごいマメだも」
    余程意表を突かれたのか、ジークとトラはしばらく目を瞬かせ、メレフの顔をまじまじと見つめる。メレフの言葉に驚く二人を、逆にメレフはそちらが不思議だとでも言いたげに見つめ返した。
    「……?忘れるわけがないだろう。そもそも、同調日は帝国の記録に残るようになっている。……二人は覚えていないのか?少なくともルクスリアは記録を残していると思ったのだが」
    ジークはその疑問を聞いてうーんと唸りだす。
    「ああー、そうやな……記録はまあ、調べれば残っとるんやろけどな。もちろん何年一緒に過ごしたかは分かるが、ワイ自身は日付までよう覚えとらんわ」
    その回答を残念に思ったのか、メレフはそれを聞いてはあ、と小さくため息をつく。
    「……そうか。まさか少数派だったとは……」
    その様子を見て思わずジークは不服そうに反論する。
    「いやいや、確かに日付は覚えてへんけどやな!メレフ!誤解や!」
    そのジークの横をぴょんぴょんと飛び跳ねながら、トラもメレフに言う。
    「でもでも、トラも日付まで覚えてないも。やっぱりメレフがマメなんだと思うも!」
    すると今度はそれを聞いていたレックスが思いついたようにトラに言う。
    「あー、でもさ。トラとハナの場合、ハナの記録媒体に日付が残ってそうだよな」
    「ももっ!盲点だったも!アニキさっすがだも!同調日になったらハナが教えてくれるように言っておくことにするもー!」
    そしたらお祝いできるもー、とトラは先程に増して元気に飛び跳ねた。
    「……いや、そこは祝うのなら確認した後ご自分で覚えておくべきでは……」
    と、黙って話を聞いていたビャッコも流石に突っ込みを入れたが、トラは浮かれて話を聞いていないようだ。ルンルンと嬉しそうに踊り出している。メレフとレックスは、その様子を笑いながら眺めていた。メレフはふと気にかかり、今度はレックスに問いかける。
    「では……、レックスは覚えているか?」
    問われたレックスは「オレ?」と不思議そうにメレフの方を向く。そしてすぐ、いつもに増した明るい笑顔で言い切った。
    「……ああ、もちろん!ホムラと初めて出会った日のこと、オレは忘れないよ。絶対ね」
    「そうか」
    それを聞いてメレフは嬉しそうに微笑み、優しくレックスの瞳を見つめた。
    「……ああ、ところでレックス。すまないが、私がここで何を買っていたかはカグツチに内緒にしていてもらえるか?」
    メレフは穏やかな表情のまま、レックスに依頼する。それに対してレックスも彼女の顔を見上げ、当然と言うように頷いた。
    「分かってる。贈り物だもんな」

    そんな会話をしつつ、買い物を終えた五人は大聖門方面へと階段を登ってゆく。すると、バジェナ劇場前の辺りからよく知っている女性たちの楽しげな声が聞こえてきた。
    「……と。レックス、ホムラ達も戻ってきたようだぞ」
    「あ、ほんとだ。……おおーい!みんな、おまたせ!」
    そう言うとレックスは、手を振りながら別行動していたブレイド一行の方へと駆けていった。


    それから数日。フォンス・マイムから発ち、レックス一行はアヴァリティア経由でグーラ方面へと向かっていた。巨神獣船は予定通りの航路を進んでおり、数日間に及ぶ船旅もひとまず終わりを迎えようとしていた、その朝の事だ。
    船上での最後の食事を済ませ、一行はそれぞれ自分の船室へ戻っていった。出発の準備をする者、それを既に済ませ、到着までゆっくり過ごそうとする者。メレフとカグツチもまた与えられた船室へと向かう。
    カグツチは船室内へ入ると、いつもより少しだけ浮足だった様子でメレフへと笑顔を向ける。
    「メレフ様、こちらを」
    カグツチは私物の鞄にしまってあった包みを取り出し、メレフへ渡した。
    「今日は私とメレフ様の同調記念日。例年に違わず、貴女と今日この日を共に過ごせることを光栄に思います」
    それを受けてメレフは小さく頷き、カグツチの差し出した包みを受け取る。
    「ありがとう、カグツチ。私も今日までお前と共に在れた事が嬉しい」
    毎年同じ。けれども、嘘偽りのない本心をお互いに述べ合う。そしてメレフも先日用意しておいた贈り物を取り出すと、カグツチへと手渡した。
    「受け取ってくれ」
    「ありがとうございます、メレフ様」
    カグツチは胸に右手を当て恭しく礼をすると、差し出された包みを大切そうに受け取った。二人は備え付けの椅子に腰掛ける。
    「ふふ、今年は何だろう。カグツチも開けてみてくれるか」
    メレフが受け取った包みを開くと、その中からムーン・リザー・リースが現れた。素朴な風合いながらも、月を象った細やかな装飾の施された、イヤサキ村の工芸品だ。それに瞳を煌めかせるメレフを見てカグツチも満足そうに微笑むと、失礼致します、と断って渡された贈り物の紐を解きその中身を取り出した。
    「これは、アルス油ハンドクリーム……。……あら、こちらは?」
    手のひらほどのハンドクリームの缶の入っていた袋の奥にもう一つ、それよりふた回りほど小さなものが入っていることに気づき、カグツチは袋の奥に手を伸ばしてそれを手に取った。
    オパール珊瑚の口紅だ。ガラスの小ぶりなケースの中に二つ並んだ柔らかな色彩の紅を見て、カグツチは顔を綻ばせた。
    「綺麗な色……。とても、素敵ですね」
    肯定するようにメレフは頷くと、良かったら今付けてみてくれないか、とカグツチに提案する。
    「まあ、よろしいのですか?では……」
    カグツチはそれを聞くと、自分の化粧品入れの中から手鏡を取り出した。口紅のケースを開き、リップブラシで己の唇に紅を引く。紅の中に含まれたオパール珊瑚によるものだろうか。鮮やかに色づいた唇が、慎ましやかな光沢を見せる。
    「いかがでしょうか?」
    その紅の色は、カグツチの透き通るような白い肌と豊かな紫紺の髪でより一層引き立っていた。
    「やはりお前によく似合っている。どうやら見立て通りだったようだ」
    メレフはその姿に満足そうにうん、と首肯すると、素直に感想を述べた。
    「……例年とは違いハーダシャルでは過ごせなかったが、こういうのも悪くないものだな。むしろレックス達と旅をすることで新しいものに次々と出会えている。それに……」
    そこまで言うと、メレフはじっとカグツチを見つめた。その眼差しに向け、カグツチは続きを促す。
    「それに……、何でしょう?」
    「ずっとお前が傍にいてくれる」
    カグツチはその言葉に少しだけ意表を突かれたかのような表情を浮かべ、しかしすぐに口元を優しく緩ませた。
    「私も……。私も、メレフ様のお傍にいられる事が嬉しいです」
    そのカグツチの笑顔は心から安らいでいて。メレフはそれを見て、己の内がすうと安堵していくのを感じ、そっと瞳を閉じた。


    数日前、フォンス・マイムでのあの日の夜の情景が脳裏に蘇る。

    カグツチはあの日、ずっと。僅かに表情が強張っているように見えた。会話を交わし、表面上は笑顔に見えていても、どこか意識は違う場所にあるような――メレフはそんな感覚を覚えていた。
    実のところ、そんなカグツチを見たのは『あの日』だけではなかった。毎年訪れる同調記念日。己の傍にいることが光栄だと述べるその笑顔には、いつも微かな寂寥の影が見えていた。しかしそれは恐らく無意識で、その事実に彼女は気づいていなかっただろうが。
    その影は年を経るごとに、少しずつ増していて。そしてそれはとうとう、共に花影の断崖に向かったあの夜に、堰を切って溢れ出した。
    常に凛と立ち、帝国の宝珠でありメレフのブレイドであるという矜持をもってメレフと共に歩んできたカグツチ。その彼女が己を抱き寄せ、震える唇でようやく紡いだ願いは、メレフにはあまりにも当然で、今更で――そして、メレフ自身もかつて恐れ思い悩んだことだった。
    しかし、何がきっかけだったか。同じく思い悩んだメレフは、既に一つの答えを導き出していた。
    ――彼女が歩んできた過去も、遠い未来も、「今」ではない。
    己と彼女が分かたれるのは、何十年と後なのか、それとも明日なのか。それは誰にも分からない。けれど、「今」を生きている己と彼女に与えられているのは、ただ「今」だけであり、それこそがかけがえのない時なのだということを。

    閉じていた目を開き、メレフは向かい合った己のブレイドを『あの日』のようにまっすぐ見つめた。
    「――……カグツチ」
    メレフはおもむろに席を立つと、座ったままのカグツチの横に歩み寄った。
    「はい、どう致しましたか、メレフ様――」
    ふいっ、と、メレフの背が軽く屈む。
    カグツチの言葉が途切れる。数秒、何の音もない時が流れた。
    しばらくして、一つの影が二つに戻る。メレフは目の前の者の顎に添えていた両の手をするりと離すと、その顔を再びじっと見つめた。カグツチはピタリと固まって全く身動きせず、頰はすっかり紅潮していた。いや、紅潮しているのは首筋まで、だろうか。その彼女の前で、メレフはなおまっすぐと背を伸ばしたまま、カグツチに告げた。
    「……改めて言わせてくれ。私とともに――今を。……これからも、歩んでくれるか」
    カグツチの肩が僅かに反応する。そして数秒の沈黙の後、彼女は何も言わず、ただ静かに、ゆっくりと頷いた。その時、光が一筋。その頰を伝ったような気がした。

    その時、乗船している巨神獣船の船内放送が流れ出した。
    『まもなくグーラ領トリゴ。グーラ領トリゴへ到着致します』
    その声に二人は窓の外を見やる。遠くにはグーラの巨神獣の巨大な首が見え始めていた。
    「……ああ、どうやらそろそろ到着のようだな。カグツチ、レックス達の元へ行かねば」
    メレフはテーブルの上に置いていた贈り物を手に取りながらそう声をかけた。
    カグツチはその様子にはっとしたように顔を上げたかと思うと、慌ててメレフに手を伸ばして制止した。
    「お、お待ち下さいメレフ様!そのまま……、外に出られるのは……」
    勢いの割に妙にはっきりとしない物言いに、メレフは不思議そうな顔でカグツチの方を向く。
    「……?何だ?」
    そんなメレフの姿に、カグツチはためらい言葉を選びながら告げる。
    「その……、ですね。付いています。……口紅が。……唇以外の場所に」
    「なっ…………あっ……」
    その言葉に、先程まで穏やかな表情を浮かべていたメレフの頰が一気に赤く染まり上がった。彼女は即座に、恥ずかしそうに右手で口元を押さえた。
    「ッ……、……すまない。その手鏡を貸してくれ」
    たった十数秒ほどの時の間に、余裕と自信に満ちていた彼女の微笑みはすっかり消え失せ、メレフは戸惑うように眉を下げたまま、カグツチに左手を差し出した。しかしカグツチは何か思うところがあったのか、メレフを数秒じっと見つめた。
    「いえ、……メレフ様。せっかくですから、いっそきちんと付け直してしまいましょう。メレフ様もこれと同じ物……、お持ちなんですよね?」
    確かに、彼女は一緒に自分用にと同じ口紅を購入していた。
    「あ……ああ。そうだが……」
    メレフはまだ恥ずかしそうに頰を赤らめたまま、カグツチの問いに頷く。
    「よかった、なら問題ありません」
    今度はカグツチの表情が和らいでゆく。カグツチは手鏡の入っていたのと同じ化粧品入れに再び手を伸ばすと、今度はハンカチを取り出し、メレフの「別の場所」に付いた紅を優しく拭い取った。それから先程贈られた口紅のケースを開くと、メレフの顎に手を添え、二つのパレットのうち僅かにメレフの唇に移ったものと同じ色を彼女に引いた。
    「……これでよろしいかと。……よく似合っておいでですよ」
    「す、すまない。その、……ありがとう、カグツチ」
    よっぽど動揺してしまったのか、メレフはまだしどろもどろの口調から戻らないまま礼を言う。
    「いいえ。……ふふ……、あら、どうしましょう。……うふふ……」
    カグツチから笑い声が零れる。止められないのか、口元を押さえながらも声はやまない。その様子にむう、と少し不満げな顔をして、メレフは笑い続けるカグツチを見た。
    「……そんなに笑わなくてもいいだろう」
    その文句にカグツチはまだ笑みを零しながら、違うんです、と答える。
    「私、……私。嬉しくて……。……お揃い、ですね。メレフ様」
    本当に、心底嬉しそうに。カグツチは幸福に満ちた眼差しで、己のドライバーを見つめた。その視線に、ようやくメレフも笑顔に戻る。
    ゆったりと雲海に揺れる巨神獣船の窓から差し込む柔らかな日の光が、二人を優しく照らしていた。
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