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    契約結婚茨あん(致死量に至る恋)の、本編後のおまけです。愛を知らないふたりの話。
    (お誕生日おめでとうございます!)

    愛のマニュアル 最近、茨くんが優し過ぎて困る。なんてそんな惚気みたいなこと──実際多分、ほとんど惚気なんだろうけれど──誰にも言えない、というのも困る。

     茨くんとは、約半年前に利害の一致で契約結婚をして、それから何だかんだあって本当の夫婦になった。
     そもそも契約結婚をする前は完全に同い歳の同僚でライバル、という関係だったので、彼のプライベートなことはほとんど何も知らなかった。まぁ確かに、あの頃からやさしいところはあった──会議の合間に自分の分のついでとは言え飲み物を取ってきてくれたり、資料のコピーを作ってきてくれたり──けれど、まぁそれももちろん同僚の範囲を出ないものだったと思う。
     それが、最近はどうだ。私がリビングでパソコンを開いていれば必ずと言っていいほど飲み物を持ってきてくれるし、一緒にテーブルを囲むことが出来なくても食事はいつの間にか作り置きされているし、掃除も洗濯もあと少ししたらやろうと思った時にはすでにやられている。誕生日でも記念日でもなんでもないのに、プレゼントです、なんて言って洋服や小物を渡される。優し過ぎると言うか、甘やかされていると言うか。このままだと私は何もしなくても良くなるし、駄目人間になりそうなのだ。まぁ、企画書には容赦なく指摘が入ったりするけれど……それも、私にとってはありがたいことだし。


    「はぁ、そうなんすか。……うーん、まぁでも……はは、茨のやりそうなことっすねぇ……」

     平日の昼下がり。予定されていたミーティングがメンバーの都合でリスケになって、時間がぽっかり空いてしまって。早めに移動した次の会議室で顔を合わせたジュンくんに、世間話の一貫でぽろっとこぼしてしまった。あぁ、惚気って思われるのは嫌だから、誰かに話すのはやめておこうと思ったのに。
     でも、茨とは最近どうですか、と話を振ってきたのはジュンくんだし。……『身内』のジュンくんなら、茨くんのプライベートも色々知っているかなと思ってしまったのだ。

    「やりそうなこと、って?」
    「あー、何て言うか……手放したくないものは何とかして自分の手の内に置いておく方法を考えてるっつぅか。ほら、ナギ先輩にもそうだったでしょ。尽くしまくって繋ぎ止めようとしてる感じ」
    「なるほど……?」
    「オレも詳しくは知らねぇんですけど、あいつ、特殊な育ちらしいから、いまいち普通の愛し方が分かってないって言うか。まぁ、オレも人のこと言えねぇんですけどねぇ〜」

     あ、これオレが言ってたって言わねぇで下さいよぉ、なんて焦ったように言うジュンくんに、少しだけ躊躇いながら口を開く。

    「……えっと。茨くんってやっぱり、私のこと好き、なのかな」
    「……はぁ? いや、え? なんで今更?」

     驚いたような呆れたような声と顔をしたジュンくんをまっすぐ見ていられなくて、テーブルの上で閉じられたノートパソコンに視線を向けながら話を続けることになった。

    「うぅん……あの、契約が本当になった日は、確かに告白してくれた、んだけど……それ以降はそういうこと、言われたことなくて。なんか、やっぱり都合が良いから手放せなかったのかなとか、実は私のことを絆して駄目人間にしてから手放すつもりなのかなとか、考えてて」

     もしそうだったら悲しいな、と思って、でも私が茨くんの奥さんであるメリットって、茨くんにとってはないと思うし……なんて卑屈な言葉まで出てきてしまった。あぁ、本当にジュンくんに迷惑をかけてしまう。

    「あの、まぁ、まじでオレが言えたことじゃねぇんですけど……茨にとっては、あんずさんが奥さんであること、メリットしかねぇと思いますよ。つぅか、あんずさん以外が奥さんなんて、あいつにとってはありえねぇっつぅか……」

     まぁ、詳しくはそこでやべぇ顔してる本人に聞いて下さいねぇ。
     そう言ったジュンくんの視線の先、いつの間にか私の背後に立っていた茨くんに、存分に『分からせ』られたのは言うまでもない。





     二十代女性の貴重な半年間、愛のない生活を送らせてしまったことを反省していたから、できるだけ「世間一般の幸せな夫婦生活」が送れるように、自分なりに色々と試行錯誤していたつもりだった。
     確かに、何をしようとも暖簾に腕押しで、あんずさんから返ってくる言葉や表情にいまいち手応えがないとは思っていたが。まさか自分の意図──ここでは『愛』と呼ぶべきもの──が全く伝わっていなかったどころか、むしろマイナスにとられていたとは思わなかった。

     こちとら、彼女が電話口で七種姓を名乗るどころか、一緒に食卓を囲んで食事をとったり、玄関に自分と彼女の靴が並んでいるだけで幸せを感じる、みたいな、言葉にするだけでケツがかゆくなるような思いを毎日味わっているというのにこの人は。あぁ、どうしてくれよう。
     まぁでもあんな、相談のようでいて惚気の形をした話をするなんて、彼女が俺を愛してくれていることの証明のようなものだし、それ自体には喜びを感じている。
     だから、話の相手がジュンで助かった、と思いながら、彼女への対応マニュアルを早急に改めるべく、今夜二人の時間を確保するための行動をとることにした。

     まずはストレートに、愛の言葉を伝えるところからはじめようか。
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