七種茨くんとお付き合いを始めて驚いたことのひとつに、その愛情表現がある。
何となく、茨くんは淡白なイメージがあったから、恋愛なんて仕事の片手間、人生経験のひとつに過ぎないのかな、と思っていた。だけど。
「あんずさん、こっち」
未だに慣れない、茨くんのおうちのソファの上。先に腰かけていた茨くんの隣に少し間を空けて座った瞬間、その綺麗な顔の眉根を少しだけ寄せて、手招きをされる。どきどきしながら座り直せば、僅かに空いた隙間をぴったりと埋めるように引き寄せられて、びくりと肩が揺れた。
「緊張してます?」
「……えっと、うん」
「はは、もっとずっとすごいこともしてるのに、ねぇ」
かわいいですね、と耳元でささやかれればまた肩が跳ねた。くすぐったかった、なんて言い訳は出来ないくらいに頬があつくて、胸がどきどきしてどうしようもない。
「キス、してもいいですか?」
「……ぅ、いい、よ…………ん、」
いちいちお伺いを立てられる方が恥ずかしいから、不意打ちでしてくれていいのに。なんて思っていることも分かった上で、私の反応を見てわざと言ってきているのだろうな、と思いながらその唇を受け入れた。
ふに、と触れたそれはうすくて、でも存外やわらかい。角度を変えて数回押し付けられて、動きに合わせて促されるように口を開けば、厚みのある舌に割り込まれる。
「……っん、う、ん、……ぁ、む」
「ふ、……ん、はぁ……んん」
舌を絡められたと思ったら押し込まれて、上顎を通って全体をゆっくりなぶられる。それからもう一度舌を絡められて弄ばれるから、息が足りなくて口を開いたのに。丁度いいとばかりに奥まで入り込まれて驚いて瞼を開けば、じっとりとした視線でこちらを観察していた茨くんと目が合った。
「……ぁ、いばら、く、まって、」
「……は、……あなた、キスにも全然慣れませんよね」
「……そ、ういういばらくんは、きす、すきだよね」
名前を呼んでやっと離されて、息切れしながらも意趣返しのつもりでそう言ったのに。
「キスが好き、と言うか……まぁ、俺のキスに翻弄されているあなたを見るのは好きですね」
今さっきまで私の中で好き勝手していた舌で自身の唇を舐めて笑う茨くんに、私が勝てるはずもないのだ。