【n回目にして】
空気がほんのりと暖かい。
夜明けの香りが微かに聞こえる。
指の先がチリチリと痺れていた。
体のあちこちが痛く、血が右目に入って開けられない。耳元で囁かれるこの声が、遊んでくれと駆け寄って来たちびっこ達の泣き声か、燃える家畜の断末魔か分からない。見渡す限りの大地は煤けて黒く燻り、夜空は煙に霞んでいた。満月を隠した黒い雲からポツリと雨粒が落ちてくる。次第に激しくなる雨に雷も混ざり、瓦礫の隙間に残っていた火も消され、一人立ち尽くす彼女を容赦なく濡らした。
「……。」
点々と立つ電柱だけが、つい数時間前までここには街があったのだと伝えている。人獣も虫も文明も燃え尽き、助けを求める万人の声も枯れ果てて、千と二百五十年続く古都はあまりにもあっけなく陥落した。何をもって国とするのか、そんな議論などもはや必要のない焼け野原を前に、彼女は腕を組んで立っている。
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