元々、最悪だったのだ。可不可が用意した『使いどころがない有休を詰め込んだ連休』が兄の休みと丸かぶりだった事も、兄が自分の知らない所で勝手に二人分の海外旅行ツアーを申し込んでいた事も、ヨーロッパへと向かう飛行機の運行中に急に機体が激しく揺れ始めて、荷物が落ちてきてそれが頭に当たる寸前隣に座る兄に庇われた事も、全て。でもそれも、今の状況と見比べるとかなりマシだった。直後、失われた意識から浮上して、兄と二人きり、黄金に輝く大地を背に目が覚めて、遠くに青い星が見える今よりは。
隣で安らかに寝息を立てている兄を一瞥し、嘆息を吐き出す。蹴りつけて起こしてやろうかと思ったが、意識を失う寸前に聞こえた、切実と悲哀を混ぜ合わせた様な音で自分の名を呼ぶ声を思い出して、大きく舌打ちをするだけに留めた。地面と同化してしまいそうな金糸と、呼吸で上下する胸を確認してからこれは夢だろうと考える。
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