転がる宝石と見えてる犬と吠えない熊 よりにもよって近衛隊長であるオルドの留守中に。隊長代理を務めているグラナートは城の中央廊下を駆け抜けながら苦々しく叫んだ。
「現世からの侵入者など、あり得ない事態だ。そもそもそんなことが可能なのか!?」
背中でシンプルに一つに結えただけの金髪が踊る。
「いえ、理論的には不可能だと……。そもそも現世の只人は、魔界の毒素には耐えられないはずで……」
隣を走る副官の男性・パーヴェルも、全力疾走でグラナートに並走している。
「私もその認識でいた。どういうことなんだ? マダム・アマーリアのアトリエに何か仕掛けがあるということではないんだよな?」
魔界で1番のドレスメイカーの店には、たしか、店主でデザイナーのマダム・アマーリアがイメージしたとおりのドレスを実体化させる部屋があったはずだと記憶していた。しかし、ドレスを実体化できるのはあくまでマダム・アマーリアの能力によるもので、部屋自体に仕掛けはないということだったが。知らないだけで、実は何か秘密があったのかもしれないとグラナートは走りながら考える。
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