ねこはなかない。ねこのこえがした。
ゆらゆらと浮かび上がらないギリギリの水面下を漂っていた意識は易々と浮上し、瞬きを2回繰り返す。星明かりだけを頼りに周囲を把握することには、もう慣れた。
完全に覚醒しきった頭をゆるりと振って、己が目を覚ますことになった原因に自嘲する。
こんなところにねこなんているわけが無いのだ。血で汚れた泉も、硝煙交じりの砂塵も、鼓膜を破る爆発音も、生物が住むべきところではないこの荒野に、いるわけが無い。
──まぁ、そんなところに己はいるのだが。諦めに似た含み笑いを零し、枕代わりのアサルトライフルを抱え直す。元より寝付きは悪い方であったが、ここに来てからはさらに悪化した。ふわふわと漂う意識は1度浮かび上がればその夜はもう沈むことは無い。さりとてそこに問題は無いが。寝転べば体力は回復するし、第一眠れたところで悪夢とも言えない何かを見て明け方飛び起きる羽目になるのだ。大差は無い。
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