きっと地獄にある「しげるは、えいえん、ってどこにあると思う?」
衣和緒がそんな突拍子もないことをしげるに尋ねた。
「永遠か。どこにあるかなんて考えたこともなかった。」
永遠なんてあるかないかさえ分からないのに、あることを前提に、そしてどこにあるかを聞かれるだなんて、しげるは思ってもいなかった。
「永遠は時間がないところにあるんじゃない」
永遠は時間という概念があると成り立たないから、としげるは答えた。衣和緒は驚いた顔をして「さすがしげるね、賢いわ」と称賛した。
そして衣和緒は大きい目で空を見上げながら続けた。
「それがもし本当なら、衣和緒はしげると地獄に行きたいわ。」
しげるは思わず目を丸くした。こんなに可愛らしい少女の口から、希望を胸に秘めたような弾んだ口調で、自分と地獄に行きたいだなんて台詞が吐かれるだなんて、誰が想像できただろう。
「なんで地獄なの」
しげるは訊ねずにはいられなかった。どうしてよりによって地獄なのだろうか。
「天国ってキラキラしててフワフワしててすごく綺麗なところだろうけど、それだと衣和緒、飽きちゃうだろうなって。それなら地獄の鬼と闘った方が、きっと楽しいわ。」
しげるは衣和緒らしい回答に思わず破顔した。
「ちょっと、衣和緒は本気よ。笑うだなんて許せないわ。」
「フフ…鷲巣らしいなって思ってさ。
…あと、どうして俺となの?他の人とか、ひとりじゃいけないの?」
しげるが一番気になっていたのは、どうして永遠の空間に自分といたいと思ったのかだった。
しげるが訊ね返すと、衣和緒は自身の頬を赤く染めながら答えた。
「…だって、しげると、ずっと一緒に、いたいから…」
衣和緒はしげるから大きく目を逸らしながら続けた。
「しげると麻雀やってる時、ずっとこの時間が続けばいいのにって思うくらい楽しいの。しげるとずっと遊んでられたらなって。一緒に地獄で鬼たちと闘ったり麻雀したりして、ずっと楽しく暮らしたいなって…」
衣和緒は自身の鼻先から耳の端まで真っ赤にして、今にも泣きそうなくらい目が潤んでいた。しげるはそんな衣和緒を見ていると、手を握って抱きしめたくなった。
「そんなこと、できたらいいな。俺も、鷲巣と地獄、いけたらいいな。」
しげるは衣和緒の手を握るのも抱擁するのも叶わず、そう返すのが精一杯だった。
しげるの耳も真っ赤に染まり始める。
「…約束して。」
衣和緒はそう言うと、しげるの手をそっと握った。
「…うん、一緒に行こう、地獄に。」
永遠なんて贅沢言わないから、日よ暮れてくれるな。しげるはそう思いながら衣和緒の手を握り返した。