『鶴の心、知将知らず』⚠︎ATTENTION⚠︎
・当作品は理不尽都市アクションゲーム「トライブナイン」の二次創作SSです。三章までのネタバレを含みます。アニメのネタバレも微妙にあります。また、資料の不十分さやプレイ・視聴から時間が経っていることから矛盾が生じている可能性がございます。
・雑談NINE「紹介するよ」のネタバレがあります。
・自己解釈を含みます。
・青山カズキ×千羽つる子のカップリング要素を含みます。青山カズキ←千羽つる子の風味が強いかもしれません。
・カップリングと言いつつ青山カズキ本人がほぼ出てきません。
・当作品はフィクションです。
以上が了承できる方のみ先へお進みください。
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ミナトシティでの救護活動もひと段落つき、千羽は一息つく。その足はラブリーオーシャンへと向かっていた。青山に呼び出され、ここでルクスファンタズマなるものの動作テストをしたのは記憶に新しい。
よろよろとバーカウンター付近の椅子に座り、端末を開く。そこには先程確認した新しいNINEの履歴があった。件名は「紹介するよ」。この度加わった、三人の新しいメンバーの挨拶だった。
千羽はそのNINEの画面をスライドし、とある発言のあたりで指を止める。
──あ、その前に、その王次郎呼び ここではQにしたほうがいいかも
青山のメッセージ。それはQの呼び方を変えるようにという進言だった。特段、変なことを言っている訳ではない。しかし千羽にはほんの少し、違和感があった。
「馴染みがあるからと言って、わざわざ変える必要があるのでしょうか」
王次郎、と聞いて真っ先に思いつくのは『鳳王次郎』だ。かつて、ネオトーキョーの国王だった鳳天心の後継。彼はチヨダトライブを率いて、様々なトライブを撃破していった。千羽の故郷であるブンキョウもその一つだった。
そんな王次郎と同じ名で、Qが呼ばれている。正直なところ、千羽はなんとなく察しがついていた。だからそれに関しては後で説明でもして貰えばそれで良い。
ここで最初の疑問に戻る。確かに街中で王次郎、と呼んでしまうのはリスクが高いかもしれない。
しかしここはトラッシュトライブのNINE。因縁のある者もいるだろうが、果たして仲間内でも呼び方を統一する必要があるのだろうか。説明をすれば全員彼のことは分かるだろうし、できれば本名で呼びたいと思うものではないだろうか。それこそ、長い付き合いの青山が一番……。
と、そこまで考えたところで我に返った。思案に暮れるのは自分の悪い癖だ、と千羽はこうべを垂れる。本人の気持ちなど、本人にしか分からない。決めつけるのは良くないと反省した。
「Qさん本人もそう望んでいるのなら、考えすぎ……ですわよね。きっと」
千羽はそう自分を言い聞かせる。しかしどうにも納得がいかない。発言もそうだが、心なしか青山のメッセージに覇気がないように思えてならない。
いつも飄々としていて皮肉の多い青山は、普段からあまり感情的な文章を書く方ではない。しかしそれでも言葉選びなどに個性は出るものだ。その上で、三田が加わった時などの青山を思い返すと……やはり印象が違うと千羽は感じた。……彼らに何か、あったのではないだろうか。
いっそ本人に聞いてみようか。しかし弱みを見せたがらないところがある青山のことだ、はぐらかされて終わりだろう。そこまで考えて、千羽は悲嘆した。
「私は、そんなに頼りないのでしょうか」
勿論Qに比べれば劣ってしまうのは致し方無い。彼と青山の間には、千羽とは比にならない長さの付き合いがある。でも、それでもトラッシュトライブの仲間なのだ。少しくらい頼って欲しい。千羽は強くそう思った。
千羽は悲しみのあまり、カウンターに項垂れた。その時、手に柔らかいものが当たった。視線を向ければ、でっぷりとした灰色の図体があった。
「ねこまるさん?」
「にゃー……」
柔らかいものの正体であるねこまるは、千羽にすり寄る。千羽の口元が思わず緩んだ。
「ふふ。もしかして私のことを慰めてくださったり?」
「にゃ〜ん」
その通りだ、と言わんばかりにねこまるが鳴く。そんなねこまるの顎の下を、千羽は撫でた。
人と猫、会話などできるはずも無い。しかしねこまるとのやりとりを経て、千羽の心が穏やかになったのは事実だった。
「あ、そうですわ! ねこまるさんの写真を送ったら、カズキさんは元気が出たりしますかね。どう思いますか? ねこまるさん」
「にゃ〜ん」
そんな会話をしながら、千羽は端末のカメラ機能を立ち上げ、目の前の猫を収めるのであった。