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    あさぎ

    @asagi_amc

    短めのお話たちを載せていく…かもしれない🐢

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    あさぎ

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    嫉妬するあむ。

    優しい目隠し「ありがとうっ、名探偵さん!」
     喜色に弾んだ声と共に腕を取られて、頬に押し付けられた柔らかな感触がそうと気付く前に離れていく。恥ずかしそうにはにかんだ表情に、今時の子どもは随分とマセている、などと感心したのも束の間。
     ずるい卑怯だなんでコナン君だけ、とわいわいぎゃあぎゃあと騒ぎ立て始める子どもたちと、一人だけ無関心そうに肩を竦める存在にハハハと乾いた笑いが洩れる。
     少年探偵団へと依頼された、家出猫の捜索。無事に発見したその子を飼い主である少女へと引き渡して、解決に喜んだ矢先の出来事だった。
     確かに探したのは少年探偵団のみんなで、コナン一人の功績ではない。引き渡す場所まで猫を抱えていたのがコナンで、少女に直接返してあげたのもコナンで、最初に見つけたのもコナンだったから──そんな積み重ねと、数日ぶりに飼い猫に会えた喜びが極まったゆえの結果だろう、とこの時のコナンは楽観的に考えていた。
     一連を見ていた相棒曰く、あなたってホント鈍感よね、との言はいささか不服の残るものだったが。自分で考えなさいよ、と突き放し取り合わない相棒に、即座に考えることを放棄した。
     つまりそこに深い意味は存在しないのだ。
     さてそんなコナンだけが消化不良を起こしたように、感動の再会の現場から取り残されてしまってから数日後。
     そんな出来事ものんびりとした日々にすっかり忘れていた頃。
    「いらっしゃい、コナン君」
    「あ……、うん。お邪魔します」
     通い慣れた道を歩き、見慣れた外観に少しだけ鼓動を速めて、苦心してインターホンを鳴らしてしばらくの後。
     出迎えてくれたにこやかな表情の青年の姿に、コナンはその瞬間に抱いた僅かな違和感を気のせいと振り払って控えめな笑みと共に玄関をくぐった。
     頭上でカチャン、カシャ、と施錠の音を聞きながら踵を揃えて靴を脱ぎ、靴下でフローリングの床を踏みしめたところでコナンは怪訝に傍に立つ大人を振り仰いだ。どうしたの、と問い返してくるようにわずかに傾けられた顔。見下ろしてくる眼差しは何も言わないが、だからこそ違和感を覚える。
    「安室さん……?」
    「うん? どうかした?」
     本心であるような、何かをはぐらかしているような。
     どちらとも取れてしまう表情に、コナンの眉間にくっと皴が生まれる。何かが引っかかっているようなもやをうまく言葉にすることができない。鬼気迫っている感覚はないが、自分が袋小路に迷い込んでしまったような不安がある。
     このまま、先に進んでしまってもいいのか。
    「コナン君こそ、何か僕に言いたいことあるんじゃないの?」
    「は……?」
     突拍子なく聞こえた声に思わず素で返してしまう。
     そう、と相槌を打った安室が僅かに目を細めて、すぐに笑みを浮かべる。その瞬間、コナンは繕われた、と感じ取った。
     一定の線を引かれてしまった不安に、たまらず手を伸ばす。
     パンツの膝のあたりを掴んだ手は、振り払われることはなかった。
    「安室さん?」
     もやもやが強まって、あまりいい気分がしない。息苦しささえ感じ始めて、部屋に入る直前までの浮かれた気分など萎れてぺちゃんこになって沈んでしまった。
     彼の名前を呼ぶ以外に何を言えばいいのかわからないまま、尻込みする気分に逃げ出したくもなるがここで後ろに引けば取り返しがつかなくなりそうで、縋るように安室を見つめ続ける。
     どれくらいの間そうしていたのか。
     短い間だったかもしれないし、長い間だったのかもしれない。
     溜息を吐き出した安室がふっと宙を仰ぐように顔を背けて、ぐしゃりと髪を掻き上げた。そうしてからまたコナンを見下ろしてくる眼差しに、コナンは無意識に安堵する。
    「……うん。ちょっとお話しようか」
     苦笑気味に控えめに笑った安室が手を差し伸べてくる。コナンがその手に触れた瞬間、体は持ち上げられ安室の腕に抱えられていた。
     恥ずかしくないわけではないが、どうにも様子のおかしいらしい安室にひとまず好きにさせてみようと、コナンはぎこちなく体を預けた。途端ぐっと体を支える腕に力が入る感触が伝わってきて、こんな時でも駆け足になる鼓動はどうすることもできなかった。
     安室がベッドに座り、コナンはその正面に膝立ちとなって向き合った。当たり前みたいに大きな手のひらに腰を支えられて、恥ずかしさとくすぐったさで視線が合わせづらい。
     でも、とコナンは安室を見つめて、安室もコナンを見返してくる。その青灰色の奥に何か仄暗いものが見えた気がして、コナンは口を開こうとした。
     だがそれよりも先に、安室が言葉を発していた。
    「コナン君は僕のこと好き?」
    「は? いきなり何……」
     つい素気無く返してしまったのは、恥ずかしかったからだ。素直に好意を口にできるほど慣れてはいなくて、気恥ずかしさから冷めた態度を取ってしまう。
     それにそんなものは今更だろう、という思いもある。伊達や酔狂でコナンは安室と付き合っているわけではない。既にキスだけでなくそれ以上のことだってしておいて、気持ちを疑うようなことを言われて腹立たしさを感じないわけでもない。
     だがそれと同じくらいに、安室が冗談やからかいで聞いているわけではないともわかって、戸惑ってしまう。それくらいにはコナンは安室のことをわかっているつもりだったが、掴みどころのない男はまだまだコナンが把握しきれる恋人ではなかったようだ。
    「……好きだよ。ボクは安室さんが好き」
     逸らしたくなる視線を安室に向けたまま、羞恥を理性で蓋をして伝える。一度言葉にしてしまえば、二言目は案外簡単に舌に乗った。
    「安室さんは? ボクのこと好き?」
     聞かなくてもわかっていることでも、言葉にすると途端不安になるから不思議だ。調子に乗って聞かなければよかったとも後悔する。
     でもきちんと言葉にして聞かせて欲しい。
    「好きだ」
     まっすぐに向けられた言葉に、安堵と喜びがコナンの小さな胸を満たす。無意識に緊張していたらしい体がほっと脱力して、けれど安室の言葉には続きがあった。
    「たとえ君が僕以外を見るようになっても、僕は君を手放してあげないから」
    「……なんだって?」
     聞き捨てられない台詞が、幸福に満ちていた胸にぴしゃりと水を浴びせてくる。
     手の置き場がなくて、体の支えに安室の肩についていた手にぎゅっと力がこもった。同時にコナンの腰を支える安室の手にも。
    「ボクが移り気するって考えてるの?」
    「違う。でも、僕から離れたくなる時が来るかもしれないだろう」
     は、とコナンの唇から小さく息がこぼれた。
     信用されているらしいことには安心する。けれど離れたくなる時とはどういうことだ。それが安室が仄暗い目をすることと何か関係しているのか。安室が考えていることがわからない。
     人の心は不変ではない。もしかしたら安室が思うような時が、本当に現実に来るかもしれない。けれどそれは安室にも言えることではないか。
     大人と子ども。
     コナンは安室を本当に満足させてあげられていると、幸せにできていると胸を張って言うことはできない。安室が何に満足するかもわかっていない。幸せもよくわからない。だけど一緒にいたいから時間を共にして、触れたいから肌を合わせている。
     手放したくないと願っているから、安室の手を掴んでいる。
    「ボク、安室さんが好きだって言ってるじゃん」
    「今はそうだね」
    「なにそれ。どういうこと。ボクは安室さんが好きで、安室さんもボクが好きならそれで終わる話だろ。なのになんで別れるみたいな考えになってんの」
     いみわかんねぇ。
     途方に暮れるように洩らした声に、大人がこぼした溜息が続いた。
    「僕も今更こんなことを考えるなんて思ってもいなかった」
    「……あむろさん?」
    「でも現実が見えたんだ。いずれ君にも見えるかもしれない。だけどもしそうなったとしても、僕は君をそちらへは返せない」
    「ねぇ待ってよ。安室さんはいったい何の話しているの」
     安室が一人で進めてしまう話に、コナンは慌ててストップをかける。相変わらず話の意図は掴めないが、何か良くない方向へと転がっていきそうな気配だけは感じ取っている。
     コナンは不安を抑えた安室を見た。安室がそっと目を伏せる。
    「──嫉妬したんだ」
     安室の唇が紡いだ言葉を瞬時に理解することはできなかった。
    「しっと」
     鸚鵡返しに呟いて、安室を見る。
     コナンが向ける蒼から、青灰色が逃げていく。
     ……しっと。シット。嫉妬……?
     頭の中で何度も言葉を繰り返して、けれどその言葉と安室とがなかなか結び付かずに困惑を隠せない。安室に嫉妬させるような、浮気を思わせるような心当たりだってコナンにはない。
    「えっと、どういうことか説明してもらってもいい?」
     だからコナンは馬鹿正直にそう訊ねてしまったわけだが、恨みがましく見つめられてたじろいでしまう。大人が拗ねても可愛くもなんともないのに、可愛くないのがなんだか可愛い。これが惚れた弱みというものかと、そんな場合ではないとわかっているのにコナンは一人で納得する。
    「わかっていたけど君は本当に鈍感だな」
    「いや……。だって安室さんがなんで嫉妬してんのか、全然わかんねぇし」
     ここで責められる謂れがわからないと首を傾げるコナンに、安室が呆れるように溜息を吐く。そこに先ほど垣間見えた弱気な姿はない。
     片頬を包むように伸ばされた手のひらに、コナンはくすぐったく肩を捩らせた。
    「自分でもらしくない……というか、自覚してる以上に君のことが好きだということに驚いているんだが」
    「う、うん」
    「まさか、二十も年の離れた少女に嫉妬するとは思わなかった」
     モテすぎなんだよ、君。
     褒められているのか貶されているのか、お叱りを受けているのかよくわからない言葉に、コナンは正直に首を傾げた。コナンのその様子に安室が小さく苦笑する。
    「そのまま鈍感でいて欲しいような、もうちょっと敏感になって欲しいような。悩むな」
    「安室さん?」
    「でも気付かなくても君は満更でもなかったんだろう。名探偵君」
     揶揄の含まれた言葉に、頬を撫で擦る指に、仄暗い──嫉妬の混ざった眼差しに、コナンの脳裏でそれが閃く。
     気付かなくても、知らなくても、ここまでヒントを与えられれば速度を上げて回転する頭脳は真実を見つけ出す。
     コナンは窺うように眉を下げて安室を眺めた。
    「いつから……?」
    「偶然だよ。買い出しの途中でたまたま声が聞こえて、姿が見えた。謝らなくていいよ。君が悪くないことは知ってる」
     優しく宥める声に本心だろうと感じ取りながらも、それをただ鵜呑みにすることはできない。だって安室はその時の光景にこそ、嫉妬したのだから。
     自分と安室を置き換えて考えてみて、コナンはなるほどと納得する。
     たとえ不可抗力であり安室にその気がないとわかっていても、彼と同年代の女性が、彼の頬に口付けているシーンを目撃すれば嫉妬の一つや二つしてしまう。考えるだけで胃の辺りがムカムカしてくる。そうして時が経つほどに、安室は悪くないと理解していながらも彼の気持ちを疑って、互いの歳の差を──見えている世界を気にして自分で自分を追い込んでしまうのだろう。
     本当に、恋とは、心とはままならないものだ。
     好きなのに、信じているのに、時折その自らの感情に押し潰されそうになる。
    「安室さん、ちょっと待ってて」
    「コナン君?」
    「すぐ戻る」
     引き留めようとする腕をすり抜けて、コナンはベッドから降りた。そうして一度部屋を出てしばらくしてから戻っても、安室はベッドの上で同じ姿勢のまま待っていた。
     部屋に戻ってきた瞬間、安堵したように体の緊張を解したのをコナンは見逃さない。
     コナンは先程と同じように安室と向かい合い、仁王立ちとなる。
    「あんま意味ないだろうけど、顔洗ってきた」
    「……うん。ちょっと前髪濡れてるよ」
     その指摘に水滴を払うように頭を振れば、おかしそうに笑った安室にちょいちょいと髪を直された。そうして水で冷えた頬を手のひらで温められる。
    「ずるいなぁ……、君は」
    「何が?」
     きょとんとして聞き返すコナンに、安室がふっと微笑む。
    「好きだよ」
    「そう」
     興味もなくつれなく返したその頬は赤い。熱くなっていることだって、頬に触れたままの手のひらから伝わってしまっている。
     コナンは溜息を吐いて、逸らしていた目を安室へと戻した。
    「嫉妬してくれて嬉しいって言ったら、安室さん怒る?」
    「わざとなら怒るかな」
    「わざとじゃない。というか安室さんが見てるなんて気付かなかったし、そもそも相手はほんの子どもだよ?」
     情緒の育ちは男の子よりも女の子の方が早いというが。それでもまだ子どもである、と思ったところでコナンは危うく失念してしまっていた事実を思い出した。
    「そう、君と同年代の子どもだ」
     コナンは自分が子どもだという自覚はもちろん持っているが、どちらかといえばそれは本来の年齢に沿った自覚に近い。だからこそランドセルを背負った子どもだなんて、コナン自身にとっては年下の存在にすぎない。
     が、コナンの秘密を知らない安室にしてみれば、コナンもあの少女も変わらないのだ。
    「大人びてる君にとっては、同年代の子も子どもに見えるかもしれないけどね」
    「……ボクが好きで、お付き合いしてるのは安室さんだよ。他人の好意なんてどうでもなくない?」
    「気付いてくれれば少なくとも僕が嫉妬する事態は避けられる。それとも君は僕を嫉妬させたい悪い子なのかな?」
     頬を撫で、緩く小首を傾げる安室をコナンはじっと眺めた。
     出迎えられたときの違和感と不安。
     その原因が嫉妬と気付かされたときの喜びと安堵。
    「言っておくけど、嫉妬するのが安室さんだけとは思わないでね」
     瞳の奥を覗き込むように顔を近付けて、近距離で見つめ合う。
    「ポアロに来るお姉さんたち。安室さんがちゃんとあしらってるから深く考えないようにしてるけど、本当はあんまり面白くないって思ってる」
    「初めて聞いたな、それは」
    「言ったら安室さん、調子に乗るかなって」
    「……君の中で僕はいったいどんな男になっているんだ」
     深く息を吐いて顔を顰める安室に、コナンはおかしく笑ってから眉間に寄せられた皴に軽く口付けた。
     ぽかん、と目を丸くする姿がおかしくてまた笑いがこぼれる。
    「多分ボク、これからも気付けないと思う。でも気付いた時はちゃんと対処するし、ボクが好きなのは安室さんだけだから」
    「だからさっきのキスで許してほしいって?」
    「ううん。さっきのはボクがしたいって思ったからしただけ。ていうか、ボクは悪くないんでしょ?」
     首を傾げて問えば、強く腰を抱き寄せられた。いきなりのことに慌てて目の前の体に抱き縋り、崩れた脚は安室の腰に座り込んでいた。
    「ちょっと、いきなりなに」
    「君、ほんとずるい」
     ぎゅうぎゅうとコナンを抱き込んだまま、安室が溜息と共にぼやく。
     そのまま抱き潰されそうな腕の強さに、ぺちぺちと自由に動く手のひらでタップを繰り返せばほんの気持ち程度力が弱まった。だが被さるように抱きつかれているせいで、仰け反った背中が正直ちょっと痛い。
     コナンを子どもときちんと認識できているのなら、もう少し体格差についても意識を配って欲しいところだ。
    「はぁ? 何が」
     だからつい、聞き返す声にも険が混ざる。
    「お話は済んだし、今日はもうずっといちゃいちゃしよう?」
    「ひゃっ」
     囁きながらするりと裾から忍ばされた手のひらに腰を撫でられて、堪らず声が飛び出る。そして気付けばシーツの上に押し倒されて、安室の顔と天井を見つめていた。
    「今はたくさん君に触れたい気分なんだ。いいだろ?」
    「だめ、って言っても、考え直す気ないでしょ」
     指を絡め握られて、抑え込まれる。抵抗の素振りを見せれば、ぎゅっと指に力がこもった。
     外は未だ明るく、不健全極まる展開だ。
     咎めるコナンの口振りにも、安室は素知らぬ顔をして聞き流そうとする。
    「上書きさせて。君は僕の感触だけ覚えていればいい」
     焦げ付くような眼差しに、コナンは何も言わず片頬を差し出した。満足げに笑みを深めた安室の顔が近付いて、触れた温もりだけを残して離れていく。
    「やっぱり君は鈍感なままでいて。誰の好意にも気付かなくていいよ。その分僕がたくさん愛すから」
    「……浮気も遊びも、許すつもりないから」
    「僕はコナン君一筋だよ。小学生相手に大人げなく嫉妬するくらい」
    「…………本当は根に持ってるでしょ」
     問いかけても、笑みを浮かべてはぐらかされる。本当に食えない男だ。ただでは転ばない。
     仕方がない、と脱力したコナンを安室が目を細めて見下ろしてくる。その顔を挑発的に見つめ返した。
    「上書きは一回で終わり?」
    「まさか。君がちゃんと覚えられるように何度でもするよ」
     そう囁いて柔らかく押し付けられる感触を、コナンは神経に刻み込むようにそっと目を伏せて受け入れた。
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