「やあ、ファウスト」
にこりと人当たりのいい笑顔を浮かべる男が、ファウストの目線から少し外れたところに立っていた。
「......何か用か」
「いいや、別に?ただ、君に会いたくなってね」
「そうか、僕は別に会いたくなかった」
ええ、つれないなあ、なんて言ってフィガロは一段、階段を登った。残念そうなふりをしながら先程から笑顔を崩さないのも、ファウストの気を引くつもりだったのだろう言葉も、今はただ400年間燻り続けるフィガロへの不信感を積もらせるだけの材料だった。
そんなファウストの心情を知ってか知らずか、フィガロは話題を変えて話しかけた。
「ファウスト、夕ご飯はもう食べた?」
「風呂の前に食べ終わったよ。それがなにか?」
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