『甘々なクレープ』
あの子の食べる姿は好きだ、見ていて飽きない。だって本当に美味しそうに食べるから、つい餌付…ごほごほっ、失礼。あれもこれもと、つい色々食べさせてあげたくなる。
あれを食べさせた時、あの子はどんな顔をするのだろうか。隠し味にはアレが使われていると知った時には、その見た目から予想も出来ない様な味がした時は…等々。予想をしては答え合わせをする。この頃の私の楽しみの一つだ。
「…え、私も食べるのですか?遠慮します。君が全部食べてしまって結構ですよ、お腹が空いているのでしょう?」
目の前には、笑顔の子羊くん。その手にはクレープが2つ。一つは彼の分で、一つは私の分らしい。
確か、とても美味しいと評判の店のモノだった様な気がする。しかも、いつか子羊くんに食べさせようと思っていたモノの候補に入っていた気が。悔しいな、どうやら私は子羊くんに先を越されてしまったらしい。
「一緒に食べましょうよ、テメノスさん。とても美味しいですよ、これ。」
「だから遠慮します。そんなに美味しいのならば、君が食べてしまいなさい。私は、」
「遠慮しなくて良いですよ、テメノスさん。ささ、一口だけでも召し上がってください。きっと気に入りますから!」
何故か今日は、珍しく子羊くんがひかない。それぐらい君は食べれるでしょうと言っても、頑なに首を縦に振らない。あっさりめのを選びましたから大丈夫ですよきっとと、私にクレープを必死にすすめてくる。
今日はそれなりに歩いたから、小腹は空いている…気がする。けれど今クレープを食べて、この後の食事に影響しないだろうか心配だ。自分でいうのもなんだが、私の食事量は普通と比べて少ない方なのだ。間違いなく影響がでる、けれども。
「僕は、貴方と一緒に食べたいのです。…駄目ですか?」
何処か不安そうな、けれど期待に胸を膨らませているような顔をしながら、じっと見つめてくる子羊くんを前にしたら。
断るという選択肢が気がついたら塵一つ残さず消滅していたって、おかしい事ではない気がするから不思議だ。…何を言っているか分からない?私も自分で何を言っているのか、よく分からない。
「…子羊くん、少し散歩に付き合いなさい。それが条件です。」
溜め息をつきつつ、子羊くんの手からクレープを一つ受け取る。さっきまでの不安そうにしていた子羊くんの顔が、一気に眩しいぐらいの笑顔に変わった。
目的もなくただゆっくりと歩きながら二人、クレープを食べる。こんな風に誰かと食べ歩きなんて、何時ぶりだろう。最後にしたのは、何時だ?
「美味しいですね、テメノスさん!」
「…まあ、悪くはないですね。私にとっては、少し甘過ぎる気もしなくはないですが。」
クレープを一口。美味しいと評判されるだけの事はあるようだと、思う。それよりも、私が一口食べる間に半分ぐらい食べてしまっている子羊くんの方が気になって仕方がない。一口の大きさ?それとも食べる速さの問題?それだけでは無いような。
やっぱりお腹が空いていたのではないかと思った、思ったけれども。
「誰かと一緒に食べると一段と美味しく感じるでしょう?ね、テメノスさん!」
そう言って笑う子羊くんの顔は嫌いではないので、私はクレープは頑張って食べる事にした。
子羊くんの手にあるクレープは、もう数口分しかない。これには驚きだ。私の分も食べて…、くれないのですね。もう少し頑張れと、何て酷い子だろうか君は。私は君をそんな風に育てた覚えは…育てられた覚えはない?それもそうですね、うん。
「こうして、また一緒に食べましょうね。テメノスさんに食べて欲しいもの、美味しいと知って欲しいもの、沢山あるのです!」
子羊くんは、ずっとニコニコと笑っている。何が楽しいのやらと思いつつ、クレープをまた一口。
やはりこのクレープは私には甘過ぎる気がするけども、君と一緒に食べるのならとても美味しいと思う。だから、
「気が向いたら、ね。」
【終】