こんな経験はないに等しいので、どうして良いか分からなかったという言い訳をさせてください。
「あの、抱きしめても良いですか?嫌でなければで構わないので。」
クリック君は、私の嫌がる事をしない。何をするにも必ずお伺いを立ててくるので必然的にそうなるといえばそうなのですけれど、それでも大事にされているのだというのは分かる。少しでも戸惑うような素振りを見せてしまった時には、すぐに引き下がるし。
君、したいから私にお伺いを立てたのでは?そんな簡単に下がれる程度のお願いだったのですか?とか色々思うところはあるけども、相手の限界を知る為にその相手にお伺いを立てる、それは良い案だなと思ったのです。私だって彼を大事にしたいですし、嫌な事はしたくない。
何時も振り回してる癖に何言ってるんだ、ですか?それはその、からかった時の彼の反応が可愛くて可愛くて…。すみません、今後は少し自重します。出来るかは分かりませんが。
「クリック君、手を繋いでも?」
「…え?は、はい、どうぞ!」
私から何かしらの行動を起こす事はほぼ無かったので、戸惑いながらもクリック君は私の欲求に応えてくれました。
まぁ、普段から手を繋ぐ位はしてますからね。特に抵抗はありませんでしたね。でも自分からは大丈夫でも、他人からは嫌という方はいますからね。念のため。
「では、指を絡めても?」
「え?は、恥ずかしいですが、テメノスさんがそうしたいのなら!」
手を繋ぐついでに指も絡めてみたりして、これがアグネア君が言っていた恋人繋ぎというヤツかと思考を巡らせてみたり。確かに一目で只の手の繋ぎ方ではないと分かるし、自然と密着度合いも変わってくるなと。
思考を巡らせているうちに、やっぱり恥ずかしいので止めましょうとクリック君に手を振りほどかれてしまった。成る程ここが彼の限界かと思ったのだけれども、二人きりで誰の目もない所ではして良いらしい。何故他人の目が?と思いましたが、すぐ納得しました。残念な事に、全てが全て祝福してくれるような関係ではありませんからね。私達は。余計な問題を起こしたい訳ではありませんし、気を付けなければいけないのに…。私としたことが、失念していました。以後気を付けます。
「一つまた一つと、彼の事が知れるのが嬉しくて、途中からもっともっとと止まらなくなってしまって…。知識が増えるって、こんなにも楽しい事だったんですね。」
二人きりの時は何処まで良いのか?頭を撫でるのは?抱きしめるのは?言葉なくただじっと見つめ合うのは?キス…は、私がまだ恥ずかしいので確認は止めておきましょう等々。
何か色々矢継ぎ早に、クリック君にお伺いを立てたような気がします。ええ、色んな事を。
「…それでこの様か。」
「ええ、この様です。」
理解に苦しむと深々と溜め息をつくオルト君、その少し後ろには両手で顔を覆ってシクシクと泣くクリック君。そして私は、何故かオルト君の前で正座をさせられていた。
どうやら私が一気にお伺いを立てすぎたようで、そのせいでクリック君がキャパオーバー起こしちゃったみたいなんですよね。クリック君は他の人間からグイグイ来られるのは苦手、また彼の知識が増えました。…え?違う?そうじゃない?
「今まで受け身だった人間が急に距離を詰めてきたら、誰だって驚くだろう。」
「そうなのですか?」
「ああ。だから今後クリックとは、ゆっくりと距離を縮めてやってくれ。…頼むから、俺を巻き込むな。」
俺だって暇じゃないというオルト君に、そんな事を約束させられました。守れそうな気がしないのですが、その事は黙っておく事にしました。
余計な事を言って、正座してる時間を延ばされたくないので。いい加減足が痺れて感覚がなくなってきました。早く足を崩したいです、早急に。