正直、頭を鈍器で急に殴られた様な気分だった。
この頃護衛を頼まれる事が増えてきたから、少しは信頼を得られたと思っていた。それなのに、そう思っていたのは、どうやら俺だけだったらしい。
「君は、私を斬りますか?」
ふらりと何の前触れもなく俺の前に現れたこの男は、時間もありませんし回りくどい事は一切無しとしましょうかと言った。
「君の今の現状を作り上げた元凶です、斬りますか?」
「いきなり、何を…。」
「敬愛する上司を、友を、日常を壊した者が、無防備に貴方に背を向るかもしれません。斬りますか?それとも、斬りませんか?」
淡々と、ただ淡々と投げ付けられる言葉。今更何故そんな事をと思うも、彼のその表情から特に何の感情も読み取る事も出来ず、その翡翠の瞳はただじっと俺を見つめるのみ。
何がしたいんだコイツは、と頭が痛くなった。しきりに俺に斬る事を薦めてくるが、自殺願望でもあるのか。それとも、俺を嵌めて牢屋にでもぶちこみたいのか。可能性を次々考えてみるが、
「さぁ、どうしますか?」
どの可能性を考えても、最終的に辿り着く結論はただ一つ。俺はこの男に試されている、という事だ。
実に不愉快だった。今更試すような事をして、傷を抉るような真似をして、この男は何をしたいのか。…いや、違うな。何かを俺に斬らせたいのか、この男は。
「…俺の力が必要なら、素直にそう言ったらどうだ?」
翡翠の瞳から逃げることなく、此方もただジッと見つめ返す。
翡翠の瞳からは、相変わらず何の感情も読み取る事は出来ない。ただ一瞬だけ、その瞳の奥で何かがゆらりと、灯った様に見えた。
「おや、斬らないのですか?君ほどの腕が有れば、案外簡単に斬れるかも知れませんよ?」
「何も思わないと言えば、嘘になるだろう。…が、俺もそれほど暇ではない。とっとと要件を話せ。」
「おやおや、随分とせっかちさんだ。何事も先を急ぐと、良い事なんて何もありませんよ?」
「回りくどい事は一切無しなのだろう?手短に話せ、お前は俺に何をさせたいんだ?」
暫くの間ただジッと俺を見つめていたテメノスだったが、急にフッと笑ってこう言った。
「神殺し、かもしれません。」
死を怖れず私に着いてきたのならば、この先の名誉と栄光をお約束しましょう。