【柴チヒ】箱庭途中経過そこはひだまりのような場所だった。
父と二人で住むには十分すぎる広さの家と、父の仕事場である工房。深い森に囲まれ、そこだけがポッカリ空いたように広がる空間に、それだけがあった。時折物資を届けに父の友人だという柴さんや薊さんが来訪するくらいで、あとは父と二人、慎ましやかに暮らしていた。
森の外には出たことがなかった。外は危ないから、あまり家から離れないよう繰り返し言いつけられていたから。興味がない訳ではなかったが。まだ幼かった頃、兎を見かけて追いかけているうちに、森で迷子になりかけたことがあった。すぐに父や柴さん達が探しに来て、自分を見つけてくれたが、皆泣きそうな顔をしていた。父は自分を抱きしめながら泣いていた。またそんな風に皆を困らせたり悲しませたりするくらいなら、どこにも行けなくても良いと思ったのだ。
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