「ほら水篠ハンターもっと食べろ食べろ」
「あ、ちょっ…」
ひょいと旬の取皿にこんがりと焼かれ油が滴る肉が新たに乗せられる
既に旬の取皿は肉の山が出来上がっており、いくら食べても一向に減らない皿に旬の顔は少し青白い
(く、苦しい…)
デイリークエストで身体を鍛えた結果、食事量も大分増えたがそれでも成人男性並みであり、既に旬の胃は限界だった
ハンター協会での集会が長引き腹も減ったから…と都合のあった最上、白川、黒須、旬の4人で近場の焼肉に足を運んだのだが、焼いた傍から食え食えと白川が容赦なく肉を置いていくのだ
俺ばかり悪いと断ろうとしても、白川の取皿にも同じくらいの量が乗っており、それを2,3口で胃に収めていくのを繰り返す姿に引いてしまう
「貴方はもう少し回りを見たらどうですか…水篠ハンター、無理しなくて大丈夫ですからね」
「こいつが可笑しいだけだから気にすんなよ」
更に旬の皿に肉を乗せようとする白川を見兼ねた最上が制し黒須がトングを奪う
追加の肉が去って行ったのにホッと安心してしまう
「つか最上…お前肉食ってないだろ?食え!」
「貴方の異常な食いっぷりで既に胃もたれ起きてるから私はコレで結構です」
「はっ…S級も歳には敵わないってか」
「…ミディアムとレア、どちらがお望みですか」
焼肉屋に着いてから最上は肉を食べずにひたすらサラダとつついていており、黒須は酒を煽っていた
この2人は焼肉屋に来た意味はあるのだろうか…
大分失礼な考えが当初よぎっていたが、白川のストッパー役として今は大変有り難い2人だった
「無理に食べなくても、俺かあいつが引き受けるから安心しろ」
「1番若いんだからもっと食べられるだろう?」
「貴方は黙ってこっちを食べてなさい」
「草は要らん」
もう一口も入らないのか箸を持ったまま皿を見つめる旬に黒須が助け船をだす
「いえ、大丈夫です…」
今ではS級と貯蓄も十分であるが、少し前まで貧困だった故に、旬の中で食べ物を残すという概念は無かった
ましてや食べかけを要らないから、と幾ら黒須側から提案されたとは言え、他人に渡すなど失礼である
大きく深呼吸し覚悟を決めた旬は残りの肉を掻っ込んだ
あー…と心配する、最上と黒須の声が聞こえたが、咀嚼するのに精一杯の旬には聞こえていなかった
ゴクリと最後の肉を飲み込んだ後、旬は座席にぐてりと倒れ口を押さえていた
暫くは焼肉屋を避ける旬の姿があったとか無かったとか