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    sushiwoyokose

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    sushiwoyokose

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    殿下とユリウス 湯煙復刻大感謝~~~~

    雲間の日差しドンドン、と大仰なノックが研究室に鳴り響く。乱雑でありながら品のある音は、親友殿のものではない。はて誰がやってきたのかと首を傾げていると、次いでやたらと大きな咳払いの声が聞こえてきた。
    「ごほんッ」
    (ヴィクトル殿下……?)
    すぐさま思い当たった声の主にしばしの間身を固め、やがてゆっくりと息を吐く。こちらの返事を待つように、ドアは微動だにしていない。父の面影を色濃く宿す彼の存在に、私が必要以上の緊張を帯びることを理解して慮ってくださっているのだ。
    「どうぞ殿下、お入りください。鍵は開いております」
    「……、失礼する」
    控えめな入室の挨拶の後、えらく慎重に扉が開いた。ひょこりと顔を覗かせた殿下は古本の山の中に私の姿を認めると、そのまま困ったように眉を下げてしまった。
    「雷迅卿は? 護衛はどうした」
    「ふ……。あれの本職は私の護衛でなく、騎士団長ですから。今日は執務で別の部屋に。アルベールに御用が?」
    「いや、そういうわけではない。貴様と話をするのに来た……が、我と二人きりでは気が滅入るだろう。機会を改める」
    「……お気遣い痛み入ります。しかしせっかくご足労いただいたのです、殿下さえよろしければこのまま。いかがです?」
    困ったような顔が、益々混乱を極めている。末の子は父に似ているとばかり思っていたが、どうもヴィクトル殿下は感情が素直に表へ出る質であるらしい。心情に合わせてころころと転がる表情にはまだあどけなさも残り、このところ屠った父の残影は彼から離れつつある。
    件の温泉街騒ぎからいくばくか時間が経った頃。王の騎士となられた殿下は陛下と私の勉強会に同席するようになり、それからお言葉を交わす機会が増えた。赦さぬが恨み続けもしない、という殿下の一言を受け、私も彼を前に怯えるような態度を取るまいと努力をしている。片や父の仇。片や、喉から手が出るほど欲しかった寵愛の対象。先王を巡る立場の違いは、最早深い亀裂と言っていい。二人きりとなれば私は勿論、殿下とて、自然と肩ひじが張るというのが本心だろう。だが我々には辛うじて、祖国を想う同じ「志」があった。私には頭脳が、彼には戦う技量があり、それは併せて生かすべきものである。私とアルベールがそうであるように、ジェノ殿と陛下がそうであるように。そしてゆくゆくは――陛下と殿下も、恐らくは。重ねた力は、必ず祖国の役に立つはずだ。互いにおずおずと一歩を踏み出すことができたのは、ひとえにこの志のおかげと言えよう。亀裂はなくならないまでも、薄まるものではあるらしい。そういえば親友殿との絆さえ、初めは大きな亀裂であったと思えば、不可能などないような気がしてくるから不思議なものだった。
    到底分かり合えるとは思っていなかった厳しい瞳を、真正面から柔らかく微笑みで包み返す。殿下はたっぷり数分迷ったのち、深く頷きを返してくれた。
    「では、このまま。……客を迎える気があるのかこの部屋は、どこに座ればいい」
    「もう三歩進むと本と本の間に隙間があります。そちらを左に、影に椅子が隠れておりまして」
    「三歩……? いち、に……、……二歩ではないか」
    「くふふ、殿下はおみ足が長くいらっしゃる。あまりお急ぎではないのでしょう? 茶などは如何です」
    「いら……、いや……。兄上が貴様の入れる茶は香草の香りが強くて独特と言っていたが、美味いのか」
    「どこぞの働きづめ剣士に向けた滋養強壮の茶なのです。所謂ハーブティーというもので、確かに独特ではございましょう。アルベールは毎度眉間に皺を寄せて飲みますが、オードリック殿下は大変お気に入りでいらっしゃいますよ。味見なさいますか?」
    「……まぁ、兄上との話の種にはなるか」
    「ではご準備いたします。しばしお待ちください」
    机を立ち、裏にある簡易的な炊事場へ赴く。陰から見える殿下はそわそわと身じろぎを繰り返しつつ、サントレザン城の書庫に負けず劣らずの資料の山々を興味深そうに眺めていた。兄ほど読み物は好まないと聞いている。彼の気を引いているのは並ぶ本の希少性というより、壁のような圧巻の姿そのものだろう。
    「この本は崩れてこないのか」
    「本棚の裏に魔法陣を仕込んでありますから、滅多なことでは」
    「ほう。書庫の本もそんなような細工がしてあると言っていたな。……書庫にはない本なのか?」
    「被っているものもあるにはあるでしょうが、私的に買い集めたものばかりですから。趣味に寄っているといいますか、こちらのもののほうが少々専門的です」
    「……大絶賛、ファータ・グランデ魔物調理のススメ、という本が見えるがあれも趣味か」
    「ふふ……」
    「……。茶には入れていないだろうな」
    「ご安心ください、歴とした茶葉に絞っております」
    沈黙を気遣った雑談に答えながら、沸いた湯をポットへ移していく。常ならば背で手伝いを強請る触手は大人しいものだ。彼や陛下の前では決して姿を見せるなと言い含めてある命令を、忠実に聞いてくれている。
    「さて、お待たせいたしました。念のため中身の茶葉もお持ちいたしましたが、説明を?」
    「いい。貴様が下手に毒物を盛るような馬鹿ではないというのは理解している。……いただきます」
    厳めしく眉を寄せながら、律儀に食事の挨拶を残した青年は差し出したカップに躊躇なく口をつける。よい、変化と思っていいのだろうか。
    「にっ……、っ……っが……! いや、苦いがなんだこの清涼感は……、頭が冴える、というか目が覚める……いや、ほっとするのか……?」
    「ふふ、効果のほどは絶大です、これは保証しましょう。味については賛否両論ありますが、一口目で慣れてしまえばあとはどうとでも。この苦さが癖になるとは陛下の談です」
    「まぁ……、不思議と後をひく味であるのはわからんでもない。しかし兄上がこんなに苦いものを……」
    ひそめられた眉が、寂しげに下がっていく。若干の雪解けを見ているとはいえ、殿下にとっての私はそれほど親身なものでないだろう。それでも私を選んだ、ということは、つまりよほどの用があったということに他ならない。ようやく腹を割って話すことができるようになった兄や、師匠としての関係を結んだジェノ殿には話すことのできないような用が。
    「陛下と、何かございましたか?」
    「……何故そう思う」
    「研究者の性でしてね、目に入るものは分別なくじっくりと観察してしまう。近頃の殿下は、陛下の話となるとどこか誇らしげなお顔をしていらっしゃいましたが、今はどうも晴れやかでない。加えて私の元へいらした、ということは……、と。推論の結果です、思い違いであれば失礼を」
    厳しい瞳が、驚きをもって私を見ている。年相応のあどけなさを戻した殿下は、そのままどこか幼い顔つきで力なく首を横へ振って見せた。
    「ふん、レヴィオン随一と言われる策士は伊達ではない、か。その通りだ、兄上について相談があってきた。……正確に言うと、ジェノに出された課題についてとなるがな」
    「はて、課題」
    「王の騎士となるにあたって、だそうだ。これがなかなか、我には難しい。悔しいが行き詰っている」
    殿下は一つ深いため息を吐いて、カップの中の紅茶を啜る。今度は表情が変わらない。どうやら、気に召していただけたようだ。
    「知っての通り、兄上は引っ込み思案のあがり症だ。最近は威厳を身に着けようと努力もしているが、人前に出る、高説を語る、知らない人間と交流する……と言った、要するに王の執務は兄上にとって全てが疲労の原因だ」
    「……ふむ」
    「そうして疲労が募ると、あれはすぐにどこかへ姿を消してしまう。しばらく引きこもって、余裕が戻ると出てくるんだが……この、隠れ身の速さが問題でな。どういうわけかジェノは全く難儀しないようだが、我には隠れた先がすっかりわからん」
    「そういえばこの頃、殿下が陛下をお呼びする声を遠くに聴くことがありますが……」
    「隠れ鬼は苦手なんだ、呼んで出てくるのを待った方が早い。だがジェノは、我に居場所を推察できるようになれと言う。……確かに、大声で王を呼び立てる護衛というのも格好がつかないからな」
    「ジェノ殿からの助言などは?」
    どこぞの護衛は大声で名を呼びながら廊下を駆けてくるが……という一言は辛うじて飲み込み、真摯に殿下の言葉に寄り添うこととする。難しい顔のまましばらく黙ってしまった青年は、もう一度深くため息を吐くと、遠くを見つめて一つ苛立ちを孕んで舌を打った。
    「鼻で追う、と」
    「ふっ……」
    「ふざけておるだろう。我はワーウルフでなければエルーン族でもないのだぞ、ヒューマンだ、ヒューマン。故にあれの感覚は到底あてにならんと踏んで、貴様を頼るに至った。……兄上のことには詳しいだろう、行先の候補などを知ってはいないかと思ってな」
    「成程。そういうことでしたら、お役に立てるかもしれません」
    「本当か!」
    「ええ。ただ、陛下の隠れ家を存じているというわけではございませんが。……陛下は一人になりに行くのでしょう? このサントレザン城において、人目につかない場所というのは知識で導き出すことができます」
    普段であれば触手で引きずり出す資料を、足で歩いて取りに行かねばならない。知らず怠惰になっていた己に苦笑しながら、椅子から腰を上げて机周りに放ってある古めかしい地図を一つ持ち舞い戻った。カップを退けて、小さな茶机の上に図面を広げる。
    「これは、サントレザン城の設計図か……? 我が知るものよりずいぶん詳しいが」
    「……私の大罪を機縁に城は大きな修繕を加えられました。その際、図面から意図的に記述を省略した箇所があるのです」
    「意図的に?」
    「アルベールがまだ団長に就任する前になりますが……、かつて騎士団の主力が遠征に出かける最中、地方諸侯がサントレザン城に押し入ったことがありました。その際、真っすぐに王の住居区域を狙いに行くような動きをしていたことから調査を進めたところ、書庫からサントレザン城の設計図を持ち出して野盗に共有していたことがわかったのです。当時の図面では王の居住区域までくっきりと明記がありましたから、これはいけないと。造りそのものが変わるのを機に、図面も細工をした方がいいと僭越ながら進言させていただきました。こちらにあるのは軍議用の正式図面。……主に、城塞設備が詳しく記されています」
    細やかな地図を真剣に覗き込む殿下を眺めながら、続ける。
    「星の民を打ち破ったという逸話から始まり、我が国は長く軍事国家としての道を歩んできた。争いの中心に据えられたこの城もまた、当然戦事を念頭に設計されています。いざという時に罠となる絡繰りや、緊急時の避難路として使う地下通路も多く存在している。いくつかは、殿下もご存じでいらっしゃるのではありませんか?」
    「寝室周りに何本か通路があるというのは聞いている。だが、詳細を知ろうと思ったことはない。抜け道を使って逃げおおせるくらいならば戦って散る」
    「……」
    それはかつて、父がよく口にしていた言葉だった。諸侯侵略の折、差し迫る軍勢をアルベールが食い止めている間に寝室からの脱出を進言したところ、まったく同じ言葉で強い叱責を受けたことを思い出す。父との思い出はどれもが傷跡だ。振り返れば痛みが蘇るばかり。だというのに、忘れたくないと思ってしまうのは何故なのだろう。
    きっと私は、諦めきれていないのだろう。父から注がれる純粋な子どもへの愛情を。殿下に対する態度が一向にぎこちなさを孕んでいるのがいい証拠だ。父の面影に怯えるのも然り、寵愛を受けてきたその御身がひたすらに羨ましくてたまらない。
    「どうした」
    「いえ。……雷を切り裂く強きレヴィオン王家の血統として、それほどご立派な考えもありません。しかし王を喪えば国は簡単に傾いてしまう。そちらもよく、お分かりですね?」
    「……そうだな。特に兄上は武力を持たん。撤退とて雄姿となることもあるだろう」
    「ご理解痛み入ります。失礼ながら、殿下のおっしゃる通り陛下御自身には戦う力がほとんどない。しかし自信を持たれている持ち味もあるのです」
    「持ち味……?」
    「逃げ足と知恵。陛下はこの隠し通路を全て頭の中に覚えておいでです。さらには歴史書から紐づけて解明なされた、図面になっていない通路までご存じでいらっしゃる。護衛を振り切って城下町に出ておられることが多々ありますが、あれは存分に隠し通路を活用しているが故なのですよ」
    図面をふわりと浮き上がらせるほどのため息が零れ、殿下の身体がずるずるとソファに沈み込んでいく。体中の力が抜けているようだ。どこか、諦めがついたような節がある。
    「真面目腐って城内を歩いていた我が阿呆であったと。そうか、そうだな。あの兄上だ。いくら縮こまるのが得意だからと言って目撃談もなく城を抜け出すなどおかしいと初めから疑うべきだった」
    「ふ……。隠し通路の中でも、城下町に出るもの、廃墟同然の倉庫に近いもの、書庫に出るもの……行先は様々です。人目につかぬ場所も多くある。それらを陛下同様に使いこなせるようになれば、おのずと行先の目星もつくようになるのではというのが私の考えです。無論、確証とは言えませんがね。こちらの図面をしばしお貸しいたしましょう、お使い下さい」
    「……よいのか? 軍議用と言っていたではないか」
    「私の持ち味も知恵です、図面は頭に。写しがもう一枚、騎士団長室にもございます」
    「そういうことなら……借りていこう。すぐに覚えて返す、兄上に劣るわけにもいかん」
    脱力した身体を跳ね上げるようにして起こした殿下は、くるりと図面をまとめあげて残りの紅茶を一気に飲み下した。空になったカップを机の中央へ押し、騎士は颯爽と立ち上がる。
    「世話になった。礼を言う」
    「これしきのこと、なんなりと」
    「……最後にもう一ついいか」
    足早に去っていくのだろうという私の予想を裏切って、殿下は静かにこちらを見下ろしている。答えるように目線を返すと、小さな問いかけが降ってきた。
    「その紅茶の味。貴様は好んでいるのか?」
    「……? ええ、好きな部類です」
    「そうか。では、我らはそういう血なのだな」
    ふ、と微笑んだ殿下の顔はあまりに柔らかくあどけない。見たこともない子供の顔は、きっと弟のものだった。今度こそ足早に部屋を抜け出ていく背中に、しばし何も言えずに固まってしまう。
    「……いつでもご準備があります」
    「はは。忘れたころにな」
    扉の締まる寸前。微かに見える背中にようやく投げた一言に、楽し気な答えが戻ってくる。今度は私がどさりと脱力をする番だった。あまりに呆けているせいか、背からずるりと抜け出して来た触手が不安そうに脇腹を擽ってくる。
    「~?」
    「ああ、いや、平気だよ……。……、驚いただけだ」
    研究室の小窓から、悠然と歩いて行かれる背中が見える。消えぬ憎悪。消えぬ嫉妬。しかしそれを埋め立てて、新たな絆が渡っている。拒絶され続けてきた血の繋がり。それを彼らに認めてもらったら、幼き日の私は救われるのだろうか。
    「……、傲慢な、ことだね。奪っておいて、入り込もうだなどと」
    「……、?」
    「大丈夫。……大丈夫だよ。そうなればいいと思う気持ちと、そうなってはいけないという気持ちと……これは覚悟の問題だ。陛下も殿下も、お強くなられた。私も……そうだね、もっと、変わっていかなくてはいけない」
    「ユリウス!」
    動揺を感じ取っているのだろう。デストルクティオはぴったりと私に身を寄せて、膝の上にたごまっている。刺々しい身体を笑いながら撫でつけていると、蝶番が壊れてしまいそうな勢いで研究室のドアが開いた。そういえばこの男はそもそもノックをしないのだったと、飛び込んできた金髪をみて思わず吹き出してしまう。
    「ふっ……。あのねぇ、騎士団長? 城の中だよ。もう少し品性をもって行動するべきではないかね」
    「……よかった……。殿下が研究室から出ていらっしゃるのが見えたから」
    「話を聞く気がないと来た」
    「心配をしているんだ、心配を。……何かあったのか」
    「ふふ、僭越ながら助言を少し。君が不安に思っていることは何一つとして起きていないよ。驚くほど和やかに会話ができた。いいことかな?」
    「それは……、そうか。……うん、いいことだ。よかったな」
    魔物と対峙するような形相を浮かべていたアルベールは、散々私を眺めまわしてようやく顔を綻ばせた。浮かべた微笑みも、返した言葉も、何一つ嘘ではないと判断したのだろう。このところの彼の瞳は天雷剣より正確に、私の心を読み取ってしまう。すっかり嘘が吐けなくなったが、代わりに心は随分と軽い。
    「まぁ、せっかく来たんだ。君も茶をどうだい? 丁度殿下にお出しした残りがある、二煎目でよければすぐに出るが」
    「……この匂い、まさかあのハーブティーを殿下に?」
    「ふふ、陛下と同じく気に入っていただけたよ。レヴィオンの血筋には好評のようだ。土産ものに加工して一儲けするかな」
    「あれを……? 殿下が気に入って……? ……不敬を承知で言うが絶対に売れ残る、やめておけ」
    苦い顔でハーブティーを拒絶する親友に、おかしくなって喉を鳴らす。やたらと上機嫌な私に首を傾げたアルベールは、心の中で「根掘り葉掘り事情を聴く」と決めたのだろう。担いでいた剣を徐に降ろすと、小手の装具も外し始めてしまった。休息の構えだ、こうなった彼は半刻ほどこの部屋から出て行かない。
    「おや、顔色をうかがいに来ただけではないのかい」
    「元々休憩のつもりで来たんだ。ミイムとメイムが菓子を買ってきたから分けようと思って。普通の茶もあるんだろ? 淹れなおす」
    「くふふ、よほど飲みたくないんだねぇ。まぁいい。今日は珈琲も準備があるよ、シスがグランサイファーから送ってくれてね。サンダルフォン殿の喫茶室直送らしい」
    「おお、サンダルフォン殿の珈琲か。ではそれをいただこう。礼の手紙は?」
    「まだだ。君さえよければ、休憩ついでに文面を考えても?」
    「勿論。その前に、殿下と何を話したか詳しく聞かせてもらうぞ。デストルクティオ、この菓子を皿に。お前のぶんもちゃんとあるから、つまみ食いして減らすなよ」
    「~♪♪」
    主人より手早く触手を使う友を見てひっそりと安堵のため息を漏らす。かつて、息をすることすら許されなかったこの城に、私の居場所が据えられている。なんと幸せなことだろう。
    (この幸せがあるが故に、沸き起こる罪悪感もある。殺せない思いだって。けれど……立ち止まるわけにはいかないんだ。前を向く友がいて、前を向く皆がいるのだから)
    散らかった研究室を、我が物顔で進んでいくアルベールを追うべく立ち上がる。空になったカップを手に持てば、不思議な温もりが残っていた。
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