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    sushiwoyokose

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    5/4イベントで配布していたアルユリ+デストル+ジータの無配です!

    いけないよるのすごしかた星の瞬く宵の果て。停泊中のグランサイファーは、闇夜に溶け込むようにすっかり静まり返っていた。日付が変わってしばらく経ち、酒盛りをしていた大人たちも次々と眠りに落ちていく頃合である。平素の賑わいがまるで嘘か幻のように沈黙しまうこの時間。それは巨艇を仕切る一人の少女にとって、長い退屈の時間でもあった。
    「はぁ~……」
    心地のいい休息に沈む仲間達を、決して起こさないようにという気遣いを目いっぱいに。しかし心のどこかには、誰かに気づいてほしいなどという幼い願いも息づいている。結局零れ落ちた小さなため息は、静寂の廊下へ吸い込まれるようにして消えていった。
    (どうしたって眠れないから起きてきちゃったけど、することもないしな。どうしよう)
    フリルをたっぷりとあしらった少女らしい寝間着を翻しながら、ジータは目的もなくとぼとぼと廊下を歩いていく。凛々しく剣を振るう若き剣士の面影はどこにもなく、月明かりを受ける寂し気な瞳は年相応の幼さを孕んでいた。多くの団員を率いる新進気鋭の団長、そして未知の力を秘めた特異点。彼女の肩に乗る責はあまりにも重いが、あらゆる肩書を剥がしてしまえば齢十五の年若い子どもだ。夜の静けさに得体の知れない恐れや不安を覚えることも当然ある。
    (身体を動かせば多少眠くなるかもしれないし、倉庫で木剣でも拾って鍛錬してみる、とか?)
    同室で眠るビィやルリアを起こしたって、きっとよかった。しかし何が不安か、何が恐ろしいのか、具体的な悩みが見えない状態で最愛の友人を頼るのはどうにも気が引ける。ただ漠然とした恐怖がそこにあり、目を閉じるのが何となしに難しいだけであって、それだけなのだ。説明のつかない眠れぬ理由は、どうにもくだらないものに思えてならない。こんなことのために二人を起こしてはいけない。こんなことで悩みこんでいてはいけない。「団長」としての自分が知らず知らずのうちに幼子の「ジータ」を封じ込めていることに、彼女自身が気づく由はなかった。
    独りの夜は、あまり珍しくない。しかしかといって慣れているわけではなく、夜をさまよう少女はこうすればよいという正解を持ち合わせてはいなかった。疲労感という眠剤は手っ取り早く夜を終わらせてくれるものの、冷える風を受けながらの鍛錬は身体に障る。鍛錬という閃きは悪くないが、良いとも言えない。
    「……、あれ……?」
    目的もなく、少女の足は進んでいく。やがて食堂の前に差し掛かろうとしたところで、ジータは初めてため息以外の声を零した。無人の際は施錠をする、というのが通例となっている食堂の扉が半開きになっている。誰かが締め忘れたのだろうかと、そっと扉を押してみると「むぎゅ」っと何かが挟まる感触があった。はっとしてよく目を凝らしてみれば、薄闇の中でうごうごと蠢く影が一つ。赤黒く、刺々しいその姿はある星晶獣のものだった。
    「わ……! ごめん、いたのねデストルクティオ。はさんじゃった、痛くなかった?」
    「……、……」
    「……ええと……。デストルクティオ?」
    「……。……。……」
    身体を挟まれたというのに、赤黒い異形は文句も言わずにじっとしている。それどころかジータが謝ろうとしゃがみこむと、目線を反らすようについっとあらぬ方向を向いてしまった。
    「んん……? どうしたのそんな大人しくして。というか、デストルクティオがいるってことは……」
    「こいつには今、見張りの仕事を頼んでいてね。誰にも見つかるなと言い付けておいたから、君に気づかれて動揺しているのさ。返事をしなければ見つかっていないかも、と思って黙っているんだよ」
    「ユリウス……!」
    そっぽを向いていたデストルクティオがしょぼくれた顔をするのと同時、聞き慣れた人の声が一つ増える。暗闇の食堂から現れたのは、デストルクティオの宿主たるユリウスその人であった。俄かに酒の匂いを漂わせる青年は、夜らしくシャツとズボンだけの寛いだ衣装を纏って長髪を緩やかに結い上げている。
    「ふふ、こんばんは団長。穏やかな夜だねぇ。手洗い場なら逆方面だが、寝ぼけている顔ではなさそうだ。何か急ぎの仕事でも?」
    「え、っと、そういうわけじゃないんだけど……」
    言葉を濁した少女の姿に、ユリウスの眉がひっそりと持ち上がる。やがて彼は少女の答えを待たぬまま、小気味よく手を叩いて見せた。
    「その様子だと夜を持て余しているらしい。なら我々に付き合わないかね団長、なぁに、いけないことではあるが悪いことではないさ。きっといい夜になるよ、約束しよう」
    「いけなくて、悪くない……?」
    「言葉の綾、さ。そらおいで、おひいさまお一人をご案内だ」
    相反する言葉を少女が咀嚼しきる前に、ユリウスはくるりと踵を返して食堂の奥へと歩き去ってしまった。呆気に取られて残されたジータを誘うように、触手が華奢な手首を甘く食む。まるで「いこうよ」と促すような振る舞いに、少女はふわりと笑って異形のエスコートを受け入れることにした。
    ◇◇◇
    触手のエスコートで暗闇を進んでいくと、食堂の奥……つまり厨房の中から、ほのかな灯りが漏れ出していた。誘われるように中を覗き込んだジータの視線は、中にいたもう1人の団員とばっちりとかち合う。少女と似た金髪、鮮烈な紅眼。しかし瞳の鋭さと裏腹にその顔立ちは幼く、そして大変に整っている。ユリウスと故郷を同じくし、そして彼のかけがえのない親友。食堂に立っていたのは雷迅卿、アルベールだった。
    古くから旅路を共にするアルベールとジータは、どこか兄妹のような親しさを持っている。騎士の手が包丁をもち、何やら食材を刻んでいると見るや否や、ジータは口角を意地悪にあげたまま(それはユリウスが発した、「いけないこと」という一言をすっかり理解した顔でもあった)深夜らしからぬ大声を発した。
    「あ~! つまみぐい~!」
    「だっ、馬鹿、おい静かに!」
    「馬鹿って言った!」
    「いや違うんだ、咄嗟にすまない。聞いてくれ団長、これはみんなの食料とは別に……」
    「くふ、はは、あはははは!」
    わたわたと慌てるアルベールを横目に、ユリウスは愉快そうに手を叩いて笑い始める。恨めしげな親友の視線がぎょろりと笑顔を睨みつけるが、悪戯慣れした男に向けて制止の効果は薄い。
    「冗談よ。真面目が服着て歩いてるアルベールだもん、勝手にみんなの食料漁る真似なんてするわけないない」
    「くはは、我が友への信頼が厚いようで誇らしい限りだとも。まぁ君の言う通り、そしてアルベールが言いかけたように、今彼が扱っている食材は団員の食料として管理されているものとは別枠のものだよ。我々の自室で管理している私物の類さ。どこぞのわんぱくがしょっちゅう夜中に腹が減ったと喚くのでねぇ、こういうところは不真面目と見る」
    「胃が若いんだ、健康の証だろ。それに、お前だってなんだかんだとついてきて半分は食っていくじゃないか」
    「デストルクティオと栄養を二分するようになってからどうにも腹が減るもので」
    「そいつが憑りつく前から晩酌と夜食はセットだったと記憶しているんだが……。まあいい」
    わざとらしく肩を竦めて言葉を切ったアルベールは、軽口の応酬を見守る少女の顔をちらりと見やった。次いで親友と目くばせをし、この間数えるほどもなく。眠れずにいる少女をあやしてやりたいのだというユリウスの思惑を、紅眼はしかと読み取って小さな頷きを返した。
    「団長も食べていくか? いや、食べていけ。腹がいっぱいになると大方よく眠れるぞ。俺が言うんだから間違いない」
    「……ふふ! 子どもみたい! でもそうだなぁ、みてたらなんだかお腹減ってきちゃったし、ご相伴にあずかろうかしら?」
    「賢明だ。デストルクティオ、もう一袋とってくれ」
    「~♪」
    アルベールの言葉に従い、ユリウスから伸びた異形はするするといずこかへ伸びていく。ご機嫌にうねりながら闇夜に消えていく後ろ姿に、他人はおろか寄生主にさえ従わなかった暴虐さは面影すら残っていない。
    「食べるって言った後で聞くのもなんだけど、何作ってるの、これ? 鍋に包丁に……夜中にやるにしちゃ手の込んだことしてるじゃない」
    「『らーめん』、さ。近頃ハイラ殿がカップに入った携行タイプのらーめんを持ち歩いているだろう? 私はあれに至極興味があってねぇ、レヴィオンの特産品を土産にお声がけしたところ、様々な形態の携行らーめんを譲ってくださったんだ。今から作るのはそのうちの一つ、その名も『袋らーめん』という」
    がさがさと音を立てて戻ってきたデストルクティオは、ジータの手元に近寄ると小さな手のひらの中にひょいと何かを落としていった。異形が持ってきたものは軽い小包で、包装紙には「簡単即席!ばかうまらーめん!」と書かれている。
    「袋らーめん……? あ、前にイッパツが作ってるのみたことあるかも! かっちかちに固まった麺を茹でると、ふにゃふにゃに戻るやつ!」
    「おや流石は団長、知見が広いねぇ」
    「でも食べたことはないんだ。うわ、楽しみになってきた……! 卵ある? 私らーめんで煮卵が一番すきなんだ」
    夜の奇妙な寂しさは、すっかり少女から消え去っていた。目を輝かせて身を乗り出すジータの顔を見て、兄貴分2人の顔も緩やかに綻ぶ。かつて命を、そして絆をより戻してもらった2人にとって眩い少女の翳りを払ってやるのは言葉なき礼の形であった。苛烈な命運に弄ばれる特異点であれ、子どもは子ども。ならば束の間の休息時間の時くらい、手練れの騎空士という肩書を捨てさせてやろうというのはアルベールとユリウスの中でひっそりと取り決められた密かな感謝の証なのである。
    「くふふ、勿論用意があるよ。ただし煮卵ではなくて……まぁ完成を楽しみにしたまえ。さて、おひいさまの手を煩わせてすまないが少し手伝いを頼んでも? キャベツを一口大にちぎっておいていただけると大変ありがたいんだが」
    「え〜? 野菜はなくてもいいんじゃない? ハム入れようよ、ハム。私もローアインの食糧庫に秘密のへそくり隠してあるんだよね、貸してあげるからさ」
    「お、いいなハム。らーめんにはやはり肉だ、キャベツは飛ばそう、賛成2票だ」
    「あのねぇ君たち、あらゆる料理には食材による調和があるんだよ。特に袋麺は独特の塩辛さがある、ここに野菜の甘みが重なることで……」
    (……あれ? ユリウスってこんなにらーめん好きだったっけ)
    (お笑い大会があっただろう? あの時ネタとして扱うのに調べて、すっかり気に入ってしまったらしい。特にアレンジの効く自家製らーめんに関してはずっとこの調子だ、俺が野菜を抜こうとすると鬼の形相でもやしかキャベツを載せてくる。いや、野菜があった方が絶対美味いのはわかるんだ。でもてっとり早く食いたい時だってあるだろ、しょっぱいのを勢いよく、それこそ飲むように)
    (わかる! 具が多いと飲めないもんね〜……!)
    「こら、聞こえているよせっかちども。食事を飲むな、しっかり噛め。やはりキャベツは入れさせてもらうよ、しかしハムも借りるからね」
    「あはは、全部入れるんじゃん!」
    心持ち潜められた声は、しかし賑やかに厨房の中を転がっていく。やがて食堂には、時間に似合わぬ芳醇な湯気が立ち込め始めるのだった。
    ◇◇◇
    食堂の片隅にあるテーブルには、仕上がったらーめんを前にごくりと喉を鳴らすヒューマン3人と触手1匹の姿があった。彼らの視線の先には無論、ほかほかと湯気をあげるらーめんがある。麺の上にはたっぷりの野菜が載っており、窪ませた真ん中に程よく蒸れた卵が落とされ、具沢山な仕上がりだ。しかしそれは店で供されるものほど小綺麗ではない。ユリウスが譲らなかった山のようなキャベツに、こちらもジータとアルベールが譲らなかったハムが山のように混ざって、随分わんぱくな見目である。3人と1匹でわいわいと喋りながら仕上げたが故に煮込んだ時間もまばらで、いわば家庭的な出来栄えだった。しかし、まるで「家族」で過ごすような団欒に包まれたグランサイファーにおいて、ご馳走とは総じてこうした牧場的なものを指す。芸術品のように光り輝くらーめんとは全く異なるこの魅力を、通はこう表現するのだろう。こういうのがいいんだよ、と。
    「お、美味しそう……! このぷるぷるした卵すごいよユリウス、野菜入れて正解……! 壁がなきゃできないもんねこれ……! 早く食べよ!」
    「ふふふ、お気に召していただけて何より。お先にどうぞ、私は食いしん坊たちの取り分を分けてやらなくてはいけないものでね」
    そう言って視線を下げたユリウスのそばでは、デストルクティオがそわそわと揺れている。宿主が悠然と麺や野菜を取り分けてやる間も獣は大人しく待っていたが、その口の隙間からはだらだらと涎が溢れていた。
    「あはは、デストルクティオも立派な食いしん坊に育ったねぇ。いいこといいこと。アルベール胡椒とってぇ」
    「ん」
    「ありがと〜。デストルクティオ胡椒は〜?」
    「〜♪」
    「かけてやってくれるかい?」
    「は〜い、よいしょ。ユリウスも?」
    「ああ、お願いするよ」
    ユリウスの遠慮をそれとなく退けたアルベールとジータは、デストルクティオの椀が満ちるのを待ってそれぞれに箸を取る。さりげなく垣間見える柔らかな心にユリウスの口角が上がるのに誰もが気付かないまま、三人の掛け声は自然と揃って真夜中を揺らした。
    『いただきます!』
    アルベールの箸は真っ先に肉に向く。ジータの箸はとろりと半熟の黄身を割り、ユリウスは野菜、卵、肉、麺を器用にバランスよく持ち上げた。触手は顔面を勢いよく椀の中にずぼっ! っと突っ込み、それぞれが最初の一口を食む。
    「〜! 〜♪♪!」
    「んん〜……っ、おいしい〜!」
    「はぁ……、やはり酒の締めはこうでないとな」
    「くはは、背徳感が喜ばしく思えるのは深夜のいいところだね。しかしこの袋らーめんというのはなかなか重宝する、今度シェロカルテ殿にあったら流通ルートを教えてもらうとするかな、研究室にも置いておきたい」
    「お、いいな。俺も食いに行ける」
    「かっぷらーめんの方がいいんじゃない? 研究中のユリウスにお湯沸かす以上のことできるかなぁ」
    「確かに。サンドイッチでさえ俺が口に放り込まないと食べないんだこいつ、最近はデストルクティオが呆れて無理くり座らせてくれるから助かるんだが」
    「親友殿とて多忙を極めると椅子から動かないからね。もはや固形物を飲むのが面倒だからとスープを要求するんだよ。こいつは裏漉しの苦労を知らないんだ」
    「あはははは! 私も大忙しの時はビィに叱られるまでご飯忘れるから何も言えない! ふふ、みんな一緒だね」
    「あまり喜ばしい一致ではないがねぇ」
    他愛のない雑談に花を咲かせながら、3人と1匹はどんどんと夜食を平らげていく。少女の心に救っていた漠然とした恐れは、いつの間にやらどこかへ消えてしまっている。夜はすっかり、穏やかだった。

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