信ずるは光他者には常に警戒心を持って近づくべきである。それが見るからの悪人であれ、思わず縋りたくなってしまうような善人であれ。例え腹を割った相手がいたとしても、裏切りの想定は必ず持っておかなくてはならない。これは俺が幼いころから守ってきた、人生における鉄則のようなものだった。
要は、簡単に人を信頼するなと言う話である。スラムで生まれ育った者ならば、誰もが身に付けるであろう普遍的な考えだ。貧しく飢えた弱者達は常に死と向き合っている。明日の生を得るために他を蹴り落とすなど日常茶飯事の出来事で、そこに良心の呵責が芽生えることはそうそうない。善意の施しが平然と仇となって戻る世界だった。雀の涙ほどの優しさがあったとしても潰えるだけ。慈しむ心は美しさを称賛される前に、馳走のように食いつぶされてしまう。この薄汚い世界でも生きていきたいと思うのなら、優しさは捨てるべきだ、なんて、冷酷な選択をした日の記憶は遠く昔だ。曖昧ですらある。
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