月が綺麗ですね「今の銃声、聞こえました? 片切様ではないといいですね」
遠くから聞こえて来た何発かの銃声に真次は耳を澄ました。黒の弾丸のイベント発表時間から一時間ほど経っている。弾丸を巡る争奪戦だと思っていいだろう。
「真次君、いつまでそれ続けるの? 体育座りだって、似合ってないよ」
真次はしーっと人差し指を立てて声をひそめる。
「いつ誰に見られるか分かりませんから、私が名乗るまでは真次さんでお願いします」
「はーい」
「今日はここから動く予定はありません。寝られるうちに寝てください。私が見張りをしますので」
「分かった」
真次の言葉でゆとりは後ろで横になったが、十二時を過ぎても後ろでころり、ころりと寝返りをうつ気配がした。
「眠れませんか?」
「これからみんなが殺される事考えるとわくわくしちゃって」
「必ずご期待に添いますよ」
「うん、真次く、真次さんがやってくれるなら確実だね」
ゆとりとは彼女が中学生の頃からの付き合いだ。彼女のゲームに必要な仕事を真次は今までつつがなくこなしてきた。
「満月です…… 月、綺麗ですよ、心木さん。眠れないなら見ませんか?」
「友一に言われたい」
「それは失礼」
「月なんてどうでもいい。私のなかで輝いて狂わせてくれるのは友一だけだよ」
「そうですね」
確かに、人を狂わせるのは人しかいない。
それでも真次は満月を見上げ目を細めた。わくわく、か。自分も久しぶりに心が動く。月が綺麗ですよ、陳腐な台詞を誰にともなくもう一度呟くくらいには。