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    🟣文庫

    @azoa8a

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    友人に書いたもの記録する倉庫的な使い方をするはずです♪

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    🟣文庫

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    ⚠友人に書きました2j3jkgmさんの夢です。
    ご理解のある方のみお進みください!


    カラーパレット
    夜行列車 明ける 知らない

    夜の旅 久々に訪れた彼の自室でなんとなく見ていたテレビは、塞ぐように現れた彼の端正な顔で見えなくなった。

    「たまには旅行でもどうでしょうか」

    頭を傾けて揺れる優しい色の茶髪に見惚れながらも、突然の誘いに「はい」と自然に声が漏れ出ていた。少しぶっきらぼうな声色は緊張していたのだろうか、旅行の了承を得てからは一気に声も表情も明るくなった。

    「では早速予定をお聞きしたいのですが」
    用意周到さはさすが取締役代表と言ったところで、あれよあれよという間に旅行の計画が立てられていた。彼の自室のソファに二人でもたれて団らんする度に、話題は旅行一色だった。


    ───


    「大まかな旅行先は決まりましたが、具体的に行きたいところとかはありますか?揺蕩さんが希望する場所があったら是非そこに行きましょう」
    「いや、私は社長と一緒ならどこでもいいですよ」

    そう答えると社長は目元を赤らめながら眉毛を下げ声を押し込めて笑う。

    「え、そんなに笑うところでした?いや確かに文字にすると恥ずかしいセリフかもしれないですけど」
    「いや、揺蕩さんならそう言うだろうなぁって、思ってたんですよ。やっぱり予想通りでしたね」

    少し背を曲げて軽く握った手を口元に寄せて笑う姿に、大口を開けて腕に嚙みつきそうになったが、小さい口を開いて笑う横顔は憎めない愛おしい顔だった。


    「だからね実は考えてたんですよ、行きたいところ」
    「はい!」と社長の調子のいい声とともに顔がこちらに向く。少し子供っぽい自信ありげな表情で社長はこちらを見て、何かこちらの返答を待っているようだった。
    なんだなんだとわたわたしていると、スマホから怒涛の通知音が部屋に響く。ぎょっとして光るスマホ画面の通知の主を見れば、加賀美と書いてある。
    開いてみると様々なURLが送信されていた。

    「はは、これ、俺の行きたいところです。あと揺蕩さんが好きそうな場所も一緒に送りました」


    「いろいろ見てたらだいぶ多くなっちゃって……いや、ね、まあ、せっかくの旅行ですし…………」
    ぼそぼそと一人で話す社長は一旦置いておいて、画面をスクロールすると流れていくのは甘味の情報や有名らしいプラネタリウム、水族館、宝石店などなど、届いたURLの多くは自分が好きそうな情報で占められており、恥ずかしさとうれしさでたまらなくなっていた。



    ───


     そんなこんなで旅行当日を迎えていたが、社長は旅行当日とはいえ社長らしく、当日の夕方までは商談が入っているらしい。前日に渡されたのは夜行列車の切符で、駅で待ち合わせで、とのことだった。
    仕事からそのまま軽く支度だけして来たであろう、ジャケットを腕にかけて立っている姿は様になりすぎていて、隣に向かいたくないと思いながら社長のもとへ向かった。
    乗り込んだ夜行列車はとても豪華な列車で、個室に運ばれる食事や流れる町々の灯りと夜空を眺めるだけで時間は早く過ぎていった。


    「これでも社長ですし…………、お金はね……ありますので……、せっかくの旅行ですから奮発しました」
    とごにょごにょと話していた社長は、座席がふかふかなベッドに変形させられることを知った瞬間から少年のように目を輝かせて、ばたばたと素早く組み立てていた。

    「見て!見て!できましたよ」
    「わぁ、すごいですね、すごいすごい、」
    やりきった笑顔で肩を叩かれ、高揚したテンションを下げないように軽く拍手しながら反応する。はしゃいだ姿は少年とも、少女とも言える年にそぐわない可愛さだった。



    「はい、これ枕です。ブランケットはいりますか?」
    「あ、ブランケットほしいです」
    「はい、ブランケット置いときますね、窓側の方がいいですか?」
    「いや、どっちでも景色見れるんで社長の好きな方で」
    「じゃあ俺は窓側で、はい、ベッド上がってきて大丈夫ですよ」


     よいしょ、と重そうに身体を窓側に寄せて、手のひらで隣に空けた空間をぽんぽんと叩く。そのしぐさのあまりの可愛さに頭の上にはてなを浮かばせながらも、社長と少し間隔を取って寝転ぶと、社長が整えて掛け直そうとしているブランケットが起こす静かな風を感じた。
    するとごぞごぞと身体ごと私の方を向いた社長が、ブラントにくるまれながら笑う。


    「久々に一緒に寝られて嬉しいよ」
    「な、」


    流れる街の灯りや外灯、列車の通路の灯りが間接照明になって、社長の細めた瞳が薄暗いなか私を見つめているのを捉える。



    「こうして数日揺蕩さんと過ごせるの久々でしょ?
    ましてやこうやって静かな時間に一人じゃなくてきみがいて、夜が明けてもここに変わらずいる、っていうことが、すごい久々と言うか……落ち着くというか…………嬉しいと言いますか……」


    照れて伏せた目元に生える長いまつ毛やきゅっと口を結んで少しはにかむ社長に、胸がいっぱいになる。列車の揺れと一緒に揺れる茶の前髪が愛おしい。



    「そうですよ、空が今みたいに深く沈んでいても、空が白んで朝を迎えようとしていても、加賀美さんの隣にいますよ、私は」

    「はは、俺も。おなじ」




    眠たさなのか、素を見せてくれているのか、彼が硬くない言葉で話す珍しさに、目が冴えてしまう。いつの間にか隣からはスピースピーと可愛い寝息が聞こえてくる。こちらに顔を向けたまま眠りに落ちた彼の柔らかい前髪を、一束指に絡ませくるくるともてあそんでみる。不意に前髪をいじっていた手首を掴まれヒヤッとするが、当人はぐっすり眠っているようでホッと肩を撫で下す。

     ふと窓を眺めた目に映ったのは、鋭い月の明かりで輝く雲や、きらめく星々が車内に影を作っていた。私の知らない、ひどく澄んだ夜の空だった。
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