Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    せんかMY

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍑 ❄ 🌋
    POIPOI 252

    せんかMY

    ☆quiet follow

    モモユキ_31

    Bonbon au chocolat「酔っちゃった?」
     最初に言うことがそれ? 言いたいことはわかるけど。
     口の中に残っている芳醇な酒精の香りより、口づけられた甘さの方が強くてくらくらする。
    「こんなんで酔うわけないでしょ」
    「残念」
     べろべろになったモモに無体をはたらこうと思ったのに。
     二言目に言うことはそれなの? オレが酒に強いこと知ってるくせに(時々それを心配したりするくせに)、ユキは自分にばっかり都合のいいことを言う。
    「心にもないこといわないで、ユキはジェントルマンだからそんなことするわけないじゃん」
    「はたらかれたくないの?」
    「……っ、あのねえ……」
    「僕は、」
     モモがはたらいてくれないから、
     言いながらユキはまたひとつまるい粒を指先でつまむ。それだけの仕草でなんでかすごく優雅でスマートに見えるんだからすごい。
    「こんなことしてるんだけど」
     歯でじょうずに粒を挟んで、ユキは音もなく顔を寄せた。
     再び口移しで押し込まれる。チョコレートのまるい粒の中に、スコッチウイスキーの煙たげな香りが詰まっている。唇と舌を介して押し込まれた瞬間に溶けて、中からいい香りの液体が滲み出てくる。中に入っている酒には粘性がないから下手するとこぼしてしまうと思って啜ると、ユキは嬉しそうな顔をした。ユキを啜ったんじゃないんだけどな、別に啜りたくないわけでもないけれど(むしろ啜りたい)。
     チョコレートと酒の匂いのする唇をペロペロと舐められてうずうずと落ち着かない気持ちが膨らんでいく。酔っているとしたらこんなチョコレートの中の少ない酒なんかじゃなくて、こんなわけわからないことをしてくるユキに酔ってる(そもそも普段から酔ってるような気もするけど)。
    「いくつ食べさせたら、乱暴にしてくれる?」
     口移しでチョコレートをオレに食べさせながら、ユキはわくわくとした表情で楽しそうにそう言う。子どもが誕生日にプレゼント待ってるみたいな顔しないでほしい。そんなかわいいことお願いされてるわけじゃないんだから。
    「百個食べたって千個食べたってしません」
    「強情だなあ……」
    「どっちが!」
     あまいチョコレートの匂いと酒精のかおりがふわふわと鼻孔をくすぐる。
     それだけで酔えるほどふたりは弱くない。そんなことどっちも知ってるけど、そういう遊びをするみたいに、戯れるうちにみるみるチョコレートのまるい粒は減っていく。
     三十個くらい食べればグラスいっぱい分になるとかなんとか聞いたけれど、それだと百個でせいぜいグラス三杯ちょっと、全く足りてない。千個は無理かもしれないというか、チョコの食べ過ぎで甘さに喉が焼けてしまいそうだと思った。
     ユキは飽きることなく、チョコレートをひとつずつオレの口に運んでいる。甲斐甲斐しい鳥の親みたいでちょっと微笑ましくなった。下心は全く微笑ましくなかったけど。
    「ユキ」
     さすがに甘さに辟易しはじめたので、止めるように口を挟む。
     ユキも同じ気持ちだったようで、喉が渇いた、とか呟いた。オレだって水が飲みたいよ。
    「いいよもう キスだけでいいから」
     それでも諦める気配はなくて、ソファの上を距離を縮めるようににじり寄ってくる。
     最初からキスしたかっただけならそういえばいいのに。オレにはいつだって、チョコレートよりスコッチウイスキーより、ユキの唇の方が上等な嗜好品なんだから。
     本当はそう口にしようと思ったけれど、また乱暴とか無体とかいう物騒なワードが出てきそうでやめた。ユキのどこから放たれてるんだかわからない、むせ返るような色気に捕らわれたが最後、気がついたら朝になってる未来しか見えない。それはとっても困る。
     機嫌がいいのか悪いのかわからない顔をしているユキの指をそっと捧げるように握って、指先についたチョコレートを舐めた。いくつ食べたのか覚えてないけど、けっこう溶けたチョコレートがべたべたとその手を汚していて、せっかく我慢しているのに奥底からちりちりと理性が焦げ付く音が聞こえる。嫌だなあ。
     チョコレートは残っていないのに、こんなにあまくて、酩酊してる。
     唇と舌で指をきれいに清掃する。ユキの指はチョコレートなんかついていなくったって砂糖より甘くて、脳髄が溶けてしまうのでよくない。
     指先が繊細なユキは、オレの舌と唇に舐められるのが好かったみたいで、はぁ、と熱い息をこぼしながらうっとりとその手を委ねた。
     垂れてしまいそうになった唾液をちゅうと吸い上げると、びくりとその身が揺れる。見なかったふりをしよう、と思って立ち上がり、
    「モモ」
     伸びてきた手がしっかりオレの手首を掴んでいる。
     瞳を合わせたら動けなくなる、と思いながら、ゆっくり後ろを振り向いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤😍☺👏💖💖😘😚💋💋🍫🍫🍫💘💘💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator