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    せんかMY

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    せんかMY

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    モモユキ_032

    「ねえモモ、したい」
     地方のロケで宿泊しているホテルの一室で、僕は出し抜けにそう切り出した。
    「無理だよユキ」
     ばっさり却下されて、想定通りの台詞なので特に気にはならないけど、とりあえず会話を続ける。
    「なんで」
    「明日、5時から仕事! 今、夜の11時!」
    「いいじゃない、無理はしないしさせないからさ」
    「だ~め~で~す!」
     断固拒否って感じの顔でモモは言う。知ってる、いつもこうだから。仕事とかあんまり関係なくモモは僕を抱くことに驚くくらい消極的だ。愛されてる自信はあるしモモが不能なわけではないし、理由だってある程度理解してるから、こういう対応されることには徐々に慣れてしまいつつある。ちっとも面白くない。
    「そっか…じゃあいいや」
     それでも大分慣れてしまったので、食い下がるのは今日は諦めることにした。
    「…………どこいくの?」
    「なんか適当に女の子見繕ってくる」
    「いやそれも駄目だよ!?」
     途端に慌てだすモモ。ちょっと面白くなってきた。別に抱いてくれなくたっていいといえばいいし、モモをからかって遊ぼうかな。
    「大丈夫だよちゃんと口の硬いプロを呼ぶから」
     めちゃくちゃ適当なことを言ってみる。
    「そーじゃなくて!」
    「なんだよ、モモには関係ないだろ。モモはしたくないみたいだから僕は僕の性欲処理をするだけなんだよ、そこまで口出しされる謂われはない」
     僕は健康的な成人男性だし、まだそこそこ若いし性欲がないなんてことはないくらいモモは分かっているはずだ。だいたいそういうのはモモの方が元気なんだ。僕に隠れて時々一人で処理してること知ってるからな。月夜ばかりと思うなよ。
    「っ〜〜まあ、そうなんだけど!」
     モモは頭をがしがしと両手でかいて、悩ましげに天井を見上げたり床をみたり忙しい動きをした。かわいい。しばらくそんな動きをしているモモを満足な気分で眺めていたら、ピタリと動きが止まった。煩悶は終わったらしい。
    「……わかった、する、しようユキ」
    「いいよ、別に無理しなくて」
     もういいです、って態度で肩を竦めて見せる。したいといえばしたいけど、モモをからかうのがちょっと楽しくてもう少し遊びたくなった。だってかわいいんだ、僕のモモは。
    「無理じゃないよ」
    「さっきまであんなに嫌がっていただろう、どういう心変わり?」
    「どういうって……」
     モモはぽかんとした表情になる。こいつは何を言ってるんだみたいな顔するのはやめてほしい。僕の感性が他の人と多少、ほんの少し違うことくらい前から知ってるくせに。
    「ユキが他の人と肌を合わせるなんてやだからに決まってるでしょ!? 浮気じゃんそんなの! まごうことなき浮気じゃん!」
    「ああ……」
     言われてみれば狭義の浮気かもしれない。でもモモが抱いてくれないんだから仕方ないんじゃないだろうか。性欲処理する自由くらいくれたっていいだろう。
    「ああって! 今わかったみたいな顔しないで!?」
     モモは再び、どんどん困った顔になっていった。僕はすごく楽しくなってきた。モモは本気でやりとりしてるつもりみたいだけど、僕はもう遊び半分の気持ちになってる。だって普段からこんな感じで、どうせ今日だって抱いてくれないんだからもう投げやりになったって仕方がないだろう?
    「じゃあ、自分でするよ。なんか適当に動画とか探して」
    「なるほど、それならおっ……けーなわけないじゃん!!」
    「なんで。一人なら浮気じゃないだろ」
     駄々っ子を相手にするような表情を浮かべる。抱けないのにオカズで処理することも出来ないんだったらただの生殺しだろ。僕の彼氏、酷すぎない?
    「そーじゃなくって!!」
    「もう、うるさいな、こうしてるうちにも刻一刻とオナニーする時間が減ってるんだ、邪魔しないでくれる?」
    「ユキの口からオナニーって言葉出るの耐えられないからやめてえ!」
     ぎゃー、と可愛くない悲鳴をあげながらモモが両手で耳を塞いだ。人をトイレにいかないアイドルみたいな存在にしないでほしい。アイドルなことは否定できないけど。というかモモだってアイドルなんだけど。
    「そもそもしないって言ったのはモモだろ、だから大人しく諦めたのに、また僕を騙したのか」
    「騙してないし! なんでそうなるの!?」
    「もういい、ひとりでするから早く出てけ」
    「ここオレの部屋なんだけど!」
     そういえばそうだった。せっかく広い部屋だから二人で一緒に寝たいなと思ってやってきたことを今思い出したので、仕方なく引き下がることにする。抱いてもらえなくても一緒に寝るくらいはしたかったなと思ったけど、意地になりつつあるのでもう諦めて部屋で処理して寝よう。
    「じゃあ僕が出てく、おやすみモ」
     身を翻そうとした時、急に腕を掴まれて引きずり寄せられる。たたらを踏んで転びそうになったけれど、うまいことモモが僕を支えた。
    「っ……?」
    「ユキの、わからず屋」
    「わからず屋はモモだろ……」
     売り言葉に買い言葉、どうでもいい口喧嘩の応酬。そろそろあんまり面白くないから、部屋に戻りたいと思う。でも――
    「もう知らない、ユキなんかひどい目にあっちゃえばいいよ」
     うつむいた、モモの表情が見えない。声からは感情が消失していて、どういう意味なのか、冗談なのか本気なのか推し量ることができなかった。
    「ひどい目って……なに言ってるんだ」
     もう知らないのなら腕を離してほしい。掴まれたままじゃ部屋に戻れない。
    「ひどい目はひどい目だよ。わからないの?」
     顔をじんわり上げた、モモの目はひどく凪いでいて、底深く据わっている。わりと本気で怒ってるのかもしれないけど、今の流れで僕が怒られるいわれある?我慢しろとか言われても僕はそういうの得意じゃないし困る。だいたいひどい目ってなんだ。
    「怒ったからって何もそんなこと言わなくたって――」
     いいだろう、と続けようとした唇は塞がれて言葉は不発に終わった。急に口付けられてますます意味がわからない。モモは不可解すぎる。
    「ん……っ」
     しかも軽いふれあいなんかじゃなくて、思いっきり舌が入ってきて、しばらく口内をまさぐられた。舌を吸い出され、搾り取るように吸い上げられて驚きと同時に無意識で体が跳ねる。たっぷり一、二分ほど口内は蹂躙されて、やっと解放された頃には息は上がり、体に力が入らなくなって、寄る辺なくその体にもたれ掛かるしかなかった。
     ふつふつと湧いた快楽が奥で燻った熱を熾したのがわかる。こんなことされたら抱いてもらうしかないだろう。急に意味がわからない。モモはひどい。
    「ひどい目に合うんだからね、今から」
     耳元で囁かれて、思わず肩口にしがみついてしまった。言葉の意味が入ってこず、溶け始めた意識で聞き返そうにも耳が弱い僕は囁きに感じ入ってしまって何もかもままならない。
    「っ……は、……なに…?」
    「ユキが悪いんだよ」
     今まで続いていたどこか茶番めいたやりとりが嘘のように、モモの声は急激に冷えた温度になっていた。この声は好きじゃない。置いていかれそうな気持ちになってしまう。置いていかないで、捨てないで、そんな風に感じてしまう声だ。
    「っ、わる……? ぼく、が?」
    「ユキが悪いんだよ」
     同じ言葉が二度繰り返される。耳を凌辱する、冷たくてくぐもる低い声に、全身が反応して総毛立って、熱と悪寒が同時にじわじわと世界を汚染していく。指先に到達するまで、もう間もない。
    「も、も……?」
     顔を上げても視界がうまく定まらず、見えたものは肉感的なモモの唇だった。いつも快活に笑顔を彩るそれが半開きで、隙間からあかい舌が覗いている。どこか酷薄さをたたえた形に唇が広がるのを魅入られるようにじっと目を凝らして、息がうまく出来ない、どくん、と鼓動が全身に熱の波を跳ねさせ、音が、モモの唇に吸い込まれて消えたみたいに収束した。

    「悪い子は、ひどい目に合うんだよ、ユキ」


    [悪いあなたの、にがい夢]
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