~権ゆやゆず三人で付き合うことになる話~遊矢の自室に遊矢と柚子が所在なさげにしている 2人の座る向かいには、2人に呼ばれた権現坂が呆れたような驚きのような複雑な表情で座していた
「…話はわかった だが何故そこでこの俺が出てくるのだ」
「「だって…」」
遊矢と柚子は男女の仲であった。それは権現坂も知っている。そして昨夜ついに褥を共にしたがどうやらうまくいかなかったらしい
困った2人は他に相談できるアテもなく権現坂に助けを請うたのだった そして冒頭の会話に至る
「だって権現坂ならそういうちゃんとした知識ありそうじゃない」
「何よりお前なら絶対に笑わないで聴いてくれるだろ?」
「む、ぐ…まぁ、権現坂道場の跡取りとして恥じぬよう保険の勉学も真面目に取り組んだつもりだが、別に詳しくもなければ慣れているワケでもないッ!」
「そこまでは言ってないわよ でもほかに相談できる相手もいなかったし…それに、権現坂は私たち2人をよく知ってるじゃない」
「むぅ、では遊矢だけが俺の所に来ればよかっただろう! その、なんだ、柚子も"同席"というのは…いいのか柚子?」
「んー、まあいいかなって感じ 権現坂に相談したかったのは私も同じだったし」
柚子は肩をすくめて遊矢に視線を向けるが 肝心の遊矢は?マークを浮かべているような表情であった
それを見て権現坂は諸々を察した
「…なるほどな」
「そういうコト…」
二人の納得をよそに遊矢はおいてけぼりを食らっている。
しかし柚子の呆れた声には嫌悪の色はなくそれもまた遊矢らしさなのだとでも言いたげであった
「遊矢、俺はお前らの初めての睦事がうまくいかなかった原因が遊矢にあると見たぞ」
「う…そうだよなぁ…やっぱり」
なにか心当たりがある遊矢は昨晩の光景を探すかのように視線を彷徨わせる
「いいか 睦事とは互いに気遣い、歩調や気持ちを合わせることが大事なのだ。独りよがりな行為は自慰や犯すのと変わらんぞ」
「…うん」
遊矢の肩が自責の念に圧されどんどんちいさくなる その様子を見ながら権現坂は続ける
「勿論、お前がそんな男ではないと充分知っている。だが遊矢よ、おまえは行為の最中にちゃんと柚子の顔色を見れていたか?」
「…!そうだ、俺ちゃんとしなきゃって焦って…あの時柚子がどんな顔してたのか 覚えてない…ゴメン、柚子…」
まさにドンピシャの心当たりを指摘され遊矢は反省と共に柚子に謝る
それに対し柚子もなにか言おうとするが言葉がうまく出てこない
「遊矢…わたしも、その…」
間髪入れずに権現坂は柚子のほうへも向き直る
「そしてそれは柚子、お前もそうだったのではないか?」
「え!柚子も…?」
「!…うん、権現坂の言う通り私もその時思ったこと。ちょっと怖いと思ったり待ってほしいと思ったこと。ちゃんと言えればよかったと思うの」
権現坂の振りが助け舟となり柚子も反省を言葉にする。言葉にして伝えられた事で互いの間にわずかに籠っていたわだかまりが晴れていく
その様子を権現坂は呆れながらも満足気に見ていた
「互いに、力みすぎたようだな 今度はちゃんとお互いに気持ちを確信し合って、高めていけばいいという事だ」
「そっか…うん、ありがとな権現坂。やっぱりお前に相談してよかった!」
「応、話しにくい相談の相手に他でもない俺を頼ってくれたなら この漢権現坂、お前らの友としてこれほど嬉しい事はない!」
このまま「いつも通り」終ろうとしている光景に、柚子は何か引っかかりを覚えていた。心残り、これでいいのかなという僅かな疑念
その正体までは分からないまでも柚子はこの時間をこのまま終わらせたくないと強く思い口火を切る
「ね、ねぇ権現坂。気持ちを確認し合うていうのは分かったけど"高める"って…?」
「!?なっ…ぁ!?」
「ん、確かに…?」
「それは、そのだな…うむぅ…」
権現坂は2つの意味で驚いていた。
1つはそれを俺に聞くのか!?という驚愕
2つ目は話を振ってきたのが柚子であったことだ。経験上遊矢が聞いてくるなら茶を濁せたが柚子だとそうはいかない
何より柚子は「高める」という曖昧な言い回しでもその何となくの意味を察せない程鈍くはないと思っていたのだが…
「そ、そこまでは俺も明るくはない。そもそも睦事は何も恥部を晒すだけではなかろう…!」
暗に「これ以上は聞いてくれるな」を込めるも、滲み出る律儀さが突っ込めるフックを作ってしまう
「たとえば?」
そして柚子は逃がしてくれなかった
「ぅぐ…そ、うだな…接吻や抱擁だけでも、睦事においては立派な、その…前戯だ…」
「ぎゅーっとするだけでも!?…そうか」
羨ましいほどに純粋な遊矢は目を輝かせて柚子に向き直り
そのまま流れるような動作で柚子を抱きしめる
「…~~~ッ!!!?」
「あ、いきなりゴメン、でもこうやっていれば緊張とかも無くなっていくって事だよな?そう思ったら試したくなって」
「それ、は……ッ」
違う。と言いたくなるもドキドキしてしまい言葉を飲み込んでしまう。確か昨夜もこうなってしまったような
真っ白になりそうな思考の中で目を泳がせると権現坂と視線が交差した 柚子は助けを求めたが権現坂は心得たとばかりに目を瞑った
権現坂に気を遣われた事や遊矢の鼓動、それ以上にうるさい自身の鼓動に柚子の頭は遂に真っ白になった
バッシィーーーーン!!
突き放し、からの流れるような張り手で遊矢の身体は権現坂へとボッシュートされる
権現坂は驚くも難なく受け止めた
「な、きゅうに何すんのよバカ遊矢!!!」
顔を真っ赤にしているのは怒りと恥ずかしさとテンパり具合からとわかる表情
「てて…悪かったって。でもそんな突き飛ばす程嫌だったのか…?」
「あ…、それは、その 恥ずかしくなって…!でも遊矢も急にはないでしょ!権現坂だっているのに!」
「そんなの今更だろー!?ドキドキして恥ずかしかったのは俺も同じだし!」
「はぁ…お互い様ではないか…」
ぼすんと遊矢が権現坂の胡坐の中へ仰向けに倒れこむ 権現坂の顔を見上げながら零す
「はぁ~あ、権現坂とならいくら抱き着いたってこうはならないのになあ…何が違うんだろ」
「ム…」
「?」
「遊矢、何故そこで俺の名前を出すのだ…」
「え??だって…」
自分が言った事をよくわかってない遊矢と少しハラハラしている権現坂はチラチラとこちらを伺ってもいる
そんなちぐはぐしたこそばゆい空気に 柚子はだんだんくすぐったくなってきてしまった
「ぷ…フフ…あはは!」
「な、なんだよ柚子」
「柚子…」
「フフ…こめんね、でもなんだか可笑しくて。だってそれって権現坂と一緒の時は安心してるってコトじゃない?」
「…そう、かぁ?」
「(柚子、お前は…)」
「そう、きっとそうよ。ね、権現坂は?」
「柚子、俺は…今更だな」
ようやく不穏を察知する遊矢
「待ってくれよ柚子!俺は!柚子のこと、本当に…ッ」
言い終わらないうちに遊矢は柚子に抱きしめられた
「柚子…?」
「大丈夫。ちゃんと分かってる。伝わってくるもの。」
「…!」
「権現坂が傍に居て安心する遊矢も、私が此処に居て安心してくれる遊矢も、どっちも本当のキモチだって。
どっちかが嘘や間違いだなんて、私も権現坂も思ってないんだから」
少し苦しいくらい強く抱きしめられていた。でもそれが嬉しくて遊矢も抱擁を返す
「柚子…うん。権現坂も、俺、ずっと一緒に居たいよ」