Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    おやまだ

    @pellysu7

    韓国ドラマ韓国映画でわーわー言う人(語彙)
    最近インド映画もヤバいです(語彙)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 136

    おやまだ

    ☆quiet follow

    ジェホサン作文(になってたらいいな、っていう作文)

    いっしょに暮らし始めてまだ日が浅いふたり。
    春を一緒に迎えるのは初めて。

    ああ。春を感じる。

    通勤路に臨む景色が色鮮やかになったとか、陽が落ちるのが遅くなったからだなんて、そんな情緒ある理由では無く、ジェホンにとっての春とは多忙なものであったからである。
    毎年毎年巡り来る季節、春。その彩りは忙しなく行事の続くうちに終わり、気付けば青々としげる夏に季節が移ろいでいるのが常であった。

    陽が落ちる。とは言え春の夕陽の色はどのような色だったか記憶に留めていない。
    職場である学校の門を出る頃にはとっぷりと陽は暮れ、校門の脇に咲いた桜も震えているように見えた。

    せめて花が賑わううちに山歩きにでも行ければ良い。
    それが叶わないなら景色の良い店を探して、花を愛でながら食事でも。

    そんな事を考えながら「帰ります。」と短く打ったメッセージに校門横の桜の写真を添えて送ると、「お、」と更に短い返事と住まいの近所の野良猫の写真が届いた。



    「帰りました」

    いつもならばチャイムを鳴らすと廊下をのしのしと歩く音に、奥ゆかしくサムターンがカタンと鳴る音が続くはずなのだが、今日はそれが無い。先程のメッセージの後に眠ってしまったのだろうか、と頭を掻くと、ジェホンはスーツの内ポケットから鍵を取り出しドアをあけた。

    キッチンの照明だけこじんまりと灯っている。
    春の夜の、心地よく頬を撫でる風に微かにタバコの煙の匂い。
    部屋の奥で静かに揺れるカーテン。その先のベランダにはしゃがみ込んだ見慣れた背中。

    「帰りましたよ、サンウクさん」

    ほっと胸を撫で下ろしその背中に声をかけると、サンウクはようやく振り返った。
    しかし今度はじっとジェホンを見上げたまま、うんともすんとも発しなかった。

    「あの、ただいま。帰りました。」

    いつもならば写真の猫の話や、仕事の話、他愛のない話をしながら食事の支度を始めるのだが、サンウクは灰皿替わりの空き缶にタバコを押し込むと、ジェホンを見上げたままやはり動かなかった。

    無言のサンウクの意図を読めずにいよいよ狼狽えるジェホンに、サンウクは一言
    「朝、忘れていった」
    と言うと、ため息をひとつつき、ジェホンを見上げていた顔は、外の月に移された。
    綺麗にスライスされたオレンジの様な月は、サンウクの様子を理解出来ていない自分を笑っているようにも見えた。
    朝の忘れ物とは?、変わらずしゃがみ込んだサンウクの横で立ち尽くして月を見上げ、そして今朝の自身を振り返る。

    「あ。」

    とジェホンが言うのと同時に、サンウクの手がジェホンのスーツの裾を引く。
    忘れ物、と喩えてみせたこいびとは、陽も落ちた宵にも関わらず桜の色に染まって見えた。先ほどまでジェホンを見上げていた視線は気まずそうにいったりきたりする。

    「サンウクさん」

    ジェホンは膝をつき、花を震わせる風から守るようにサンウクの頬を両手で包んだ。
    呼びかける声に瞳を揺らして、サンウクは再びジェホンを見上げた。

    「ごめんなさい、忘れたわけじゃなくて…」

    ジェホンが言い訳を始める前に、サンウクは胸倉を掴んで顔を引き寄せると耳元で
    「…ただいま、の分とあわせて二つ」
    と囁き、目を閉じた。


    (ああ。春を感じる。)


    おわり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌋🌋🌋🌋💖🙏💘💮💮💮💗🐱🌸💐🌸💖💘💘💘💘💘💘💘💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works