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    蜂須賀

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    蜂須賀

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    寒いし雪っぽいSSS。さんうくちんが神話みたいのを知ってたことに驚く先生がいます。
    元ネタ(大幅改悪)はアイランドに出てきたエピ!

    #SweetHome
    #ジェホサン
    jehosan.

    こい、うらない「そんなにすき? おじさんのこと」

     やみそうにない雪を、それでも今冬最後だろうからと眺めに出た散歩道、コーヒーを買いに行ったサンウクを四阿のベンチに座って見つめていたら、背後から射るように問いかけられた。
    振り返るとその声の主はタバコを咥えていたから、応じる代わりに咎めようとし、彼女が最近成人したことを思い出す。それでも健康に良くないとお節介にすり替えるか迷い、共に暮らす男のそれに思い至り、ずいぶん返答が遅れたことで沈黙は肯定、と断じられた。

    「そんなに、と言うのは」
    隣に浅く腰掛けた彼女に、無駄な抵抗を試みる。
    「なんでもいいけどさ、せっつない感じ。まぁそれ、恋っぽいけど」
    彼女たちの年頃のそれと同列に語られる自分に笑ってしまう。
    イ・ウニュもそれに合わせて長い髪を揺らした。

    「済州島、行ってきたんだよね」
    くるりと話題は変えられる。
    「旅行に?」
    「そう。すっごくよかった。だから、これあげる」

     手渡されたのは、まっしろな、薄い梳き紙を折り重ねたもののようだった。それは彼女の手を離れるとジェホンの掌に重さも伝えず、てろりと指になじんだ。
    知らぬ手触りと土産とは思えないそれに、戸惑い彼女を見る。
    「それはね、文字を知らない昔の女性が、精霊と対話する時に使ったものなんだって、占いとか。……呪い、とかね」
    付け加えられた不穏な単語にジェホンは怯んだ。それにかまわず彼女は、こうやって、とジェホンの手を取りその紙束を胸に当てさせた。

    ———胸元の素肌にあてて汗を吸うと、この紙が色づいて「その人のほんとうのきもち」が浮かび上がるんだって。

    ・・・・・・・

     つまらなそうにニュースを眺めていたサンウクが、もう寝ると告げる。それはいつもならジェホンが読書を止める合図になるものだった。だが、今日のジェホンは違う返答をした。
    「はい。私はもう少し、キリのよいところまで読んでしまいます」
    それを聞くと少し不服そうな顔をし、だがそれを言葉にせず寝室に消えていくサンウクの背中をジェホンは見送った。
    耳を澄ませ暗い廊下の先のドアが閉まる音を確かめると、本に栞の様にして挟んでいた紙束を取り出す。
     手渡された時にはふわりくたりとしていたそれは、厚い単行本に挟まれている間に三つ折りの筋を明らかにして、ジェホンの手の上で形を保っていた。持ち手のなにがしかを映しているように感じ、それにそぐわぬ自身の企みと小胆に苦笑する。

     暖房を消したリビングですっかり身体が凍える頃、ジェホンは寝室に向かう。
    手をこすり合わせ息を吹きかけて指先を少し温めると、柔らかな毛布の下、緩やかに上下する恋しひとの肌にそっと占い紙を忍ばせた。
    降りしきる雪がはかりごとの全てを覆ってくれますようにとジェホンは願い、あたたかな寝床に潜りこんで目を閉じた。

    ・・・・・・・

     名を呼ばれて目が覚めた。サンウクが、ひとをはぐらかす時に見せる顔で笑っている。
    「これは土地神に纏わるものだろう。お前はクリスチャンのくせに、こんなものを使うのか?」
    笑いが止まらないといった様子で、サンウクはタバコを手にベランダに出た。
    ひゅうと音を立てて流れ込む冷気が、容赦なくジェホンの頬を打つ。ひとの心を探るような浅ましさを嗤われたのだと、ジェホンは項垂れた。彼が目を覚ます前に、と思っていたのに深く寝入ってしまった。
    いや、そもそも彼はきっと気づいていたのだ。
    請い縋り、希ってした、くちづけにも。

     「チョン・ジェホン」

     呼びかけに顔を上げると、サンウクの懐から取り出されたそれが空に放たれるところだった。
    はかない紙は、今なおやまぬ雪片に触れると解けて千々に散り、舞うように落ちていく。
    ジェホンが慌ててそれを目で追うと、眼下の梅の木が薄紅をまとっていた。







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    蜂須賀

    DOODLEちょっと不思議話、1篇。
    弐之助さん主催のアンソロジー『幻想奇譚蒐集録』より再掲
     二次元、映す面、その輪郭 三綴りその朝は頭痛と上がってくる胃酸の不快感で不機嫌に髭をあたっていた。電動は好かないから毎朝カミソリを使っている。
    目覚めたのは居間の床だった。カーテンを閉める習慣を忘れて久しい窓から射す朝日が、目の前のアルミ缶から零れた液体と、緑の瓶に当たり煌めいていた。まるで他人事のようにそれをぼんやり眺めるが、数時間前の自分と今の自分が繋がっていないわけはない。浴びるように飲むアルコールはやがて循環代謝され頻繁に通うトイレで体外に排出されるものが、飲酒したという自己嫌悪だけはそうはいかず、体内に溜まり続けた。肉体を管として、なにもかもがただ通り過ぎればよいものを。
     うつろな顔と荒れた肌を見たくなくてカミソリを当てる部分だけに視線を集中する。それから目を閉じて指先の感覚で顎のラインと三日分の伸び丈を探る。ふと、かすかなカビの匂いがした。のろのろと手を動かしながらぼんやりと思う。雨? いや、ついさっき陽の眩しさで目が覚めたのだ、そんな予報だったか。天気などに関心を向ける生活でもないが、けれど時折見上げる空の色を無意識に読む癖程度は残っていた。
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