無題 黒、茶、ときに白。
アニエスが差し出す細長い箱の中には着飾ったチョコレート達が行儀よく横に一列に並び、ヴァンを見上げていた。
ナッツやドライフルーツの帽子を乗せてツヤツヤと輝くもの。ココアや粉砂糖で化粧したもの。ココナッツのコートを着込んだもの。
独特の甘い香りで誘惑し、「私をお食べ!」とそれぞれがウインクを投げかける。
「選べねぇ……」
ヴァンは頭を抱えた。
彼の頭が、舌が、今見ている全てのチョコレートが大変美味であると知っている。アニエスが手にしているのは、あの《アンダルシア》のチョコレートなのだ。
「こういうのは早い者勝ちってな」
ヴァンの横からひょいと手が伸びてきたと思ったら、続々と大きさの異なる手が現れて茶色の甘味達をさらっていった。
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