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    摩訶波羅羯諦

    @gate_macahannya

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    摩訶波羅羯諦

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    鮭だった独歩が鮭じゃない独歩になった

    初めて独歩と会った日、突然いなくなった独歩に俺はわんわん泣いたけど、とうちゃんとかあちゃんは意味がわかんなくて、言い聞かせても怒鳴ってもあやしても何もきかず、俺は遂に吐き戻して熱まで出した。死んだ魚なんか見慣れてるはずだし、小学生になった俺にとうちゃんは魚を捌くためのナイフを与えてくれていた。いずれは漁船を継ぐんだから当然だ。なのに俺が、生簀の鮭が死んでるのを見た瞬間に膝から崩れて大声をあげて泣き出したもんだから、二人とも困惑したんだ。そりゃま二人には、最初からただの鮭にしか見えてないから。俺はそんなことくらいちゃんと分かってたけど、でも取り繕えないくらい、かなしかったんだもん。せっかく名前まで教えてもらったのに死んじゃったって。目を離さなければよかった、とうちゃんなんか無視してれば、まだ今もどっぽとお話出来てたの?って。
     だってだって、さすがに急すぎるっしょ!?ほんの三秒前までそこにいたんだよ!?なのに!!
     さよならも言わないなんて、ホントよくないと思う!!
     だから俺、次独歩にあったときに、約束をした。
    「どっぽ帰る時はちゃんと帰るって言って!!」
     夕焼けだった。初夏の空は朝からずーっと澄んでいて、そこに水彩絵の具を伸ばしたみたいなサーモンオレンジ。街中全部染まってた。俺の中学の門の前に、独歩は立っていた。何回も見間違いか人違いじゃあと思ったし、実際、最初は通り過ぎようかと思ったんだけど、隣にいたクラスメイトが、「あの子、めっちゃ伊弉冉のこと見てるけど、知り合いじゃないの?」って言うから、またさらに驚いた。
     どっぽってばもっとこう、普通に出来ないのかな。鮭になって現れたと思ったら、なんにも言わずにどっか行っちゃって、六年も経ってから、次は鮭の身みたいな空の下に急に人間の姿でやってくるんだもん。しかも今度はみんなにも見える。アップデートが甚だしい。
    「……ごめん、約束してたの忘れてた。カラオケ、また今度でもいい?」
     クラスメイトにそう言うと、気にすんなよ、とあっさり引き下がってくれる。俺はどっぽに出会って、人に優しくするのが好きになった。前にどっぽに会った時、癖で、ついキツい言い方をしてしまって……それが自分でショックだった。どっぽは何ともないって言ってくれたけど、優しく出来なかった自分のことを、かっこ悪りぃって思ったんだ。またどっぽに出会った時、ちゃんと優しく出来るように、そう思って、学校の友達を威嚇するようなことはやめた。それに俺はどっぽの言うことをちょっとでも理解したくて、『世界』も、買ってもらった真新しい辞書で調べたんだ。難しいことが色々書いてあったけど、たぶん、全部ってことでしょ?俺が誰かに優しくしたら、それはきっとどっぽに優しくするのと同じになる。どっぽに会えなくても、どっぽにしてあげられることがあるんだって、俺は嬉しくなったんだ。不思議なことにあれだけ嫌だった「一二三くんは綺麗」なんて言葉にも、俺は全く腹も立たなくなっていた。全部どっぽからの言葉だと思えば、誇らしくすら思える。みんなに優しくするようになってから気付いたんだけど、俺に意地悪をするような人なんて、最初から、誰一人いなかった。
     クラスメイトに手を振ってから、初めて会った時と同じようにぼおっとしたままのどっぽの前に立つ。また、年はおなじくらい。悔しいことに、背は、どっぽの方が少し高い。
    「行こっか」
     手を差し出すと、俺にしか分からないくらいに少し笑って、ん、とどっぽがそこに自分の手を重ねる。俺はそれを握って駆け出した。
    「どこ行くんだ?」
    「えっとねぇ、」
     正直なんのあてもない。ホントのホントの本心を言えば、このままどこかにどっぽを閉じ込めて、一瞬たりとも目を離さないようにして、ずっとずっと俺のそばに、いつでも居るようにしてもらおう、と思ってはいたけど、たぶんそれは無理なんだろうなぁってなんとなく分かったし、それに、それはどっぽに対して優しくないような気がしたから、したくなかった。いや、したいんだけど、したくないっていうか?なんだろう、不思議なかんじ、どっぽはいつも俺に難しい感覚をくれる。それもそう、むつかしいし、悩ましいけど、でもうれしい。きらきらして、ああ俺はこんなことも知らなかったんだ!ってびっくりして、もっとたくさん知りたいなって思う。
     海はなんか違う気がした。また鮭になって、大海原に消えちゃったらやだし。かといって俺の家も違う。ちょっと悩んで、高台の方に行くことにした。
    「どっぽ自転車乗れる?俺っちの後ろ!」
     そう言って答えも聞かずに駐輪場にむかう。乗れないなら教えてあげればいい。ロックを外して、座面に飛び乗る。独歩は荷台に静かに座った。
    「ぎゅってしていいかんね!」
     遠慮がちに腰にまわった手を前のほうに引き寄せる。どっぽの手は意外にあたたかい。やっぱさぁ、最初の鮭のイメージが強すぎて、なんとなく魚みたいに冷たいのかなって気がしてた。そういえば、手をとったのはこれがはじめてじゃなかったな。でも前は……あんまり思い出したくないけど、俺も焦ってたから……正直、掴んだ手がどんな感じだったかなんて、覚えてない。もったいないな、って、今さっきさわった皮膚のぬるさを思い出しながら、ぎゅっとハンドルを握ってペダルを漕いだ。
     当然なんだけど高台に行くには延々、坂を登らないといけない。二人乗りの自転車は相応に重く、俺は登り始めて早々に、ギブアップしてしまった。自転車は道の脇に置いて(帰りに回収すればいい)、てくてくと坂道を登る。
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    摩訶波羅羯諦

    DONE🥂くんがフェネックだったころ俺っちがフェネックだったころ、俺っちは世界で一番かわいくて、みんなの人気者だった。
    神様はえこひいきで、かわいい俺っちのこと世界で一番愛しちゃってて、そんで俺っちは、悪いやつらに悪い魔法をかけられた。
    世界の半分が怖くなって、俺っちはフェネックであることから逃げ出した。大きな耳はいらない。手触りのいい毛皮もいらない。華奢な手足も、ふわふわのしっぽも。

    俺っちが完全にフェネックじゃなくなったころ、そばには独歩がいた。
    独歩は俺っちになんにも与えてくれなかった。
    機嫌をとる猫撫で声も、優しくなでる指先も、守ってあげると抱きしめることも、俺っちはもうなんにもいらなかった。
    俺っちがフェネックじゃなくなっても、神様はしつこく俺っちのこと愛しちゃってて、宝石級なんて言われるくらいの美貌を与えてくれたけど、独歩はそんな俺っちが、マジな顔してればしてるほど笑う。
    変な顔って指さして、馬鹿にするみたいに鼻で笑う。
    俺っちはもうフェネックじゃない。
    フェネックだったらきっと、生意気な笑い声を、指先を、愛しいと思わなかった。
    堂々とした大きな手で、独歩の頬を撫でられなかった。
    俺っちがフェネックだったこ 593

    摩訶波羅羯諦

    PROGRESS鮭だった独歩が鮭じゃない独歩になった初めて独歩と会った日、突然いなくなった独歩に俺はわんわん泣いたけど、とうちゃんとかあちゃんは意味がわかんなくて、言い聞かせても怒鳴ってもあやしても何もきかず、俺は遂に吐き戻して熱まで出した。死んだ魚なんか見慣れてるはずだし、小学生になった俺にとうちゃんは魚を捌くためのナイフを与えてくれていた。いずれは漁船を継ぐんだから当然だ。なのに俺が、生簀の鮭が死んでるのを見た瞬間に膝から崩れて大声をあげて泣き出したもんだから、二人とも困惑したんだ。そりゃま二人には、最初からただの鮭にしか見えてないから。俺はそんなことくらいちゃんと分かってたけど、でも取り繕えないくらい、かなしかったんだもん。せっかく名前まで教えてもらったのに死んじゃったって。目を離さなければよかった、とうちゃんなんか無視してれば、まだ今もどっぽとお話出来てたの?って。
     だってだって、さすがに急すぎるっしょ!?ほんの三秒前までそこにいたんだよ!?なのに!!
     さよならも言わないなんて、ホントよくないと思う!!
     だから俺、次独歩にあったときに、約束をした。
    「どっぽ帰る時はちゃんと帰るって言って!!」
     夕焼けだった。初夏の空は朝 2302

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    yuki_no_torauma

    DONEバンモモWebオンリー「百の恋と万の愛情を2」で企画されたウェディングプチアンソロジーへの寄稿作品です。

    万理さんと付き合ってる百ちゃんが、万理さんからどれだけ愛されて必要とされているのかを万理さんに理解せられるお話。

    年齢制限の問題で、肝心の理解せ部分の描写はぬるめです。

    お題はプロポーズを使用しています
    わからないなら教えてあげる 今日は仕事終わりに恋人であるバンさんの家に来ていて、バンさん特製の手料理を食べてお風呂に入って……そのあと程よくお酒を飲みながら、二人で映画を観ようということになった。
    「僕は欲張りだから、キミの全てが欲しくなってしまったんだ。お願い、僕と結婚してくれないか──」
     映画を観るために部屋の明かりを極限まで絞って暗くしたワンルーム。
     爛々と照らされたテレビの中では、『結婚適応期にいる不器用な男女が運命的な出会いを経てからお付き合いし、時にはすれ違いながら、最後は結婚というゴールで結ばれる』という恋愛物にしてはありきたりなお話だけど、主人公たちの心情描写がリアルで、結ばれるまでの道のりが感動的なため、万人の心を掴み去年大ヒットした恋愛映画が映し出されていた。
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