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    でゅわー

    @dyuwa_0000

    原神の幻覚などを置くかもしれない(暫定)

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    でゅわー

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    みこさら飲酒概念2です(非カプ)
    モンドから戻ってきた裟羅さんが、休暇の残りで神子と酒飲むお話です。
    作中に出てくる設定はほぼ捏造です。
    うっすら前作とも繋がってます。

    #原神
    genshin
    #yaesara

    お土産の軽さ◆プロローグ

    「八重宮司様」
     
     春、夕方の花見坂で神子は呼び止められた。振り返るといくつも酒を提げた九条裟羅が立っている。

    「おやおや、これは裟羅殿。休暇から戻られたのか」
    「はい。この度はお世話になりました。お陰様で戦法の真髄もわずかながら掴めました。ありがとうございます」
    律儀にお礼をする裟羅に、神子は吹き出しそうになった。
     
     先日から裟羅は休暇を取りモンドへ旅行していた。天領奉行の九条裟羅が休暇をとりモンドまで旅行する――稲妻随一の仕事人間のバカンスは、稲妻城下で噂になり、その目的など大いに推測が飛び交った。しかし神子はその理由を知っている。というよりその休暇を勧めたのが、ほかならぬ神子であった。
     少し前、八重堂出版で七聖召喚の新カードを作る企画が立ち上がった。そして裟羅をカードのモデルに起用するだけでなく、宣伝の為に実際にプレイヤーになってもらうことになった。
     諸々について裟羅を丸め込むのは、もちろん神子の仕事だった。カードには戦法の真髄があるのだと吹聴し、ゲームの手ほどきをし、モンドへの休暇を勧め――ついでに恩を着せてお土産も要求し――なんと裟羅も素直にモンドへ旅立っていったのだった。
     モンドへは船旅になるため、裟羅はスケジュールに予備日を数日とっておいたそうだ。幸い航行にトラブルはなく予定通りに戻れたため、休暇の間に荷解きしお土産を大社に届けるつもりだったという。
     裟羅の手には、神子がリクエストしたモンドの美酒たちが提がっている。旅先から直に運ばれ、まだ異国の風が薫るようだった。神子の喉が鳴った。

    「ほう、まだ休暇は残っておるのじゃな? ならば修行の成果を見てやろう」
    「っ宮司様?」

     戸惑う裟羅を引きずり、神子は烏有亭の暖簾をくぐっていった。

    ◆スーベニア フロム モンド

     いつもはカウンターで飲むことが多い二人だが、今日は七聖召喚の対戦のため、二階のテーブル席に座っていた。卓には料理と、店主に頼んで持ち込んだモンドの酒が並んでいる。裟羅のカード繰りは明らかに上達しており、モンドで腕を磨いてきたのがわかった。
     ふと、神子は裟羅のデッキに見慣れないカードがあると気づいた。神子の視線に裟羅はぎこちなく説明する。
     
    「……モンドの対戦者の提案で、記念にカードの交換を行いました。せっかくデッキをご用意頂いたのに、申し訳ございません」
    「よいよい。そうやって交流するのも札遊びの醍醐味じゃからのう」
     
     神子が笑うと、少し照れくさそうに裟羅は俯いた。
     対局の合間に語られるモンドの土地や街の話も、神子の興味を惹いた。天狗で軍人の裟羅は、土地や自然について語る切り口を沢山もっている。モンドの気候や植生、街の活気、産業や文化について語る口調はまるで視察報告のようだったが、言葉や表情の端々に旅情が滲んでいる。旅を楽しんできたのだ。頬杖をつく神子の笑みは深まった。

    「そういえば土産の酒じゃが、汝は味わったのか?」
    「いえ、そのお酒は甘いものだそうですので」
    「ほーう? 酒と甘味は違うであろう。モンドは酒造の国。鎖国が解かれた今、これはかの国を知る貴重な機会ではないか?」

     言いくるめてコップに酒を注いでやると、裟羅は渋々ちびりと口をつけた。舌に広がる甘さと痺れに耐えるように、目を細めわずかに肩をすくめ「……甘い」と呟き、また一口飲んだ。いつもなら固辞するだろう提案を受け入れる裟羅に、神子は内心ほくそ笑んだ。もしやこれは、今日こそ酒で勝つチャンスかもしれない。
     かつて神子は裟羅を酔い潰そう企んだことがある。しかし逆に自身が潰れ、裟羅に送られてしまった。それがきっかけで、ふたりはたびたび飲むようになった。その後も神子は何度か酔い潰れていたが、それでも最初の失態をやり返す機会をずっと窺っていたのだ。
     企みをもった神子は、様々な口実で裟羅に酒を注いだ。他のお土産の酒も開けてみるとか、稲妻の酒と飲み比べてみるとか、ゲームに負けたから、もしくは勝ったから。負けず嫌いに火がついたのか、ゲームの勝敗に絡めると、裟羅はよく酒を干した。常とは違うペースにも気づかず、神子がよく知る頑固頭の顔で挑み続けた。
     旅の疲れと休暇中の緩みも、余計に酒の回りを早めたようだった。いつしか限界を迎えた裟羅は卓に突っ伏し寝息を立てていた。

     ◇ ◇ ◇

     思っていたのと違う。
     卓に突っ伏す裟羅を見ながら、神子は首を傾げた。 
     もっと、やってやったと笑える気分になると思っていた。このあと好き勝手注文して、店に置いていって、目覚めた時に請求額に頭を抱えさせるつもりだった。
     けれど期待していた高揚感はなく、なんだか静かな達成感がある。窓から夜風にのって、春の湿った土と花の甘い香りが流れてくる。深くて規則的な寝息が聞こえる。神子は天狗の面を外して顔にかかった髪を払ってやった。こんな風に眠っている姿を見るのは初めてだった。
     当初、八重堂が絵師に発注するカードのテーマは、弓を構える幕府軍大将の勇姿のはずだった。
     ところが実際に神子に提出されたのは、月夜に飛ぶ天狗のデザインだった。裟羅への取材でインスピレーションを受けた編集者と絵師が、図案を変更したのだ。カードの中では、翼を広げた裟羅が月夜を自在に飛んでいた。妖怪の神子から見ても、威厳に満ちた天狗の孤高さがよく表れていた。
     新しい図案を見た神子は、企画を一部変更し裟羅にモンド行を勧めた。国内での宣伝を見込んでいた八重堂の編集には、『天領奉行の大将がモンドで修行するほどの面白さ』という噂の方がかえって人々の興味を引くはずだと説明した。裟羅は戦後に昇格して天守閣で業務をするようになっていたから、影にも根回しして休みを取るよう指示を出させた。怪訝そうな裟羅に、休息にもなるしカードには秘められた戦法の真髄があると説き、モンドへ送り出した。
     何故、自分はそこまで策を弄したのだろう。

     テーブルの上のごちそう
     カードとサイコロ。
     異国のお酒とお土産話。
     知らない土地の匂いをまとって眠る、どこかあどけない顔。
     
     眺めていると、心に静かな達成感が湧くのを感じた。この不思議な心地はどこから来るのだろう。
     物思いに耽っていると店員がやってきて会計額伝えたので、やはり置いて帰るかどうか神子は考え始めた。

    ◆帰り道の寄り道

    「ほれ裟羅、しっかり歩かぬか」

     結局、神子は裟羅を置いて行かなかった。
     足元がおぼつかない裟羅に肩を貸しながら、神子は稲妻城下を歩いていた。飲み始めたのは夕方だったが、随分長居した。今は人通りも少なく、家々の明かりも落ち始めていた。
     裟羅は時折うなされながら、きっかり五分おきに「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」と謝ってくる。鳩時計かこの娘は。神子はうんざり溜息をつく。置いて行くどころか、家まで送ろうなんて、つくづくらしくないことをしている。
     天守の門近くの坂まで来ると、九条屋敷が見えた。いつもであれば道場に一人残った裟羅の訓練の音が響いているのだが、今日は既に灯りが落ちていた。屋敷の住居部の窓が光っている。道場の静けさなど、何も関係ないように光っている。
     
    「……のう裟羅、モンドは楽しかったか?」

     窓の光を見上げながら神子は尋ねた。
     
    「はい。たのしかったです」

     目を閉じたまま、裟羅は答えた。
     
    「はじめは、本当に休息になるのか分かりませんでしたが、常には得られない出会いがありました」
     
     宮司様がお勧めくださったおかげです、ありがとうございます。微笑む裟羅の声は、いつもより柔らかく、夢の中の言にも聞こえた。
     
    「……汝、まだ休暇は残っておるのじゃろう。妾の部屋で飲み直すぞ」
    「宮司様?」

     このまま帰すのは、なんだかもったいない。
     ぐいと肩の裟羅を抱え直し神子は来た道を引き返した。

     ◇ ◇ ◇

     大社に着いた神子は、巫女を呼びつけ、自室に客用の床の準備を頼んだ。巫女は酔った裟羅を見て驚いたあと、表情険しく思い詰めた声で神子を諭した。

    「あの、八重様……! 九条様は酔っていらっしゃるようですが、その……まさかとは思いますが、人倫にもとる様なことは、なさらないですよね……?」

     凄まじい誤解と中傷に、神子は頭痛がした。
     
    「馬鹿を言うでない! 妾をなんだと思っておる」

     第一、裟羅だって神子を送りに何度もこの部屋に入っている。何故自分の時だけ疑われるのか。神子が苛立ちながら抗議すると、神子の肩に支えられた裟羅が、薄っすら目を開け喋り始めた。

    「ん……夜分にすまない。宮司様をお送りに来た。お休みの準備は私がするので、気にせず休んでくれ」

     裟羅は巫女に会釈し、そのままふらふらと神子の部屋に入り布団を敷き始めた。いや、お前は連れてこられた側だろう。神子は更に頭を抱えた。これが人望の差ですとばかりに巫女が視線を送って来るが、神子は無視した。
     そうして神子の部屋で飲みの続きが始まった。

     なにせ神櫻の真下である。花見にはもってこいだ。
     裟羅は窓際で落ちる花びらを眺めている。毎月の参拝で見かける静かで真剣な表情とは違う、リラックスした微笑みを浮かべている。
     何故、わざわざ遥かモンドにまでコイツをやったのだろう。裟羅の傍らで盃を傾けつつ、再度神子は考えていた。
     新カードの宣伝なら、稲妻国内で遊ばせる方がいいにきまってる。八重堂の企画を変え、影に根回しまでして無理やりモンドに送り出した。今だってこうして引き留めている。常とは違う自分の行動を、神子は掴みきれないでいた。
     らしくなさの始まりはいつだろう。カードの中の孤高の天狗を見た時。遊び方をレクチャーしたときの負けず嫌いの顔。お土産を広げる少しだけ得意げな声。今このとき神子の部屋で櫻を見上げる微笑み。疑問は積み上がるのに、烏有亭の時と同じ静かな達成感を神子は感じていた。

     ごちそう、札遊び、異国の思い出。
     影の為なら、すべて投げ捨て戦地へ駆けるだろう。どんなにお土産を抱えても、裟羅の命は軽いままだ。
     影の側で働いて、裟羅は信頼され始めている。この先九条家が無くなっても、ずっと影に仕え続けるかもしれない。そうして、いずれ命を落とすだろう。
     神子は雷神の眷属だ。自分の命が軽い者を、影の懐に入れる訳にはいかない。ようやく前を向いた影に、また喪失の苦しみを味あわせたくない――だから裟羅を遠ざけたかったのだろうか?
     
     いや、違う。そうではない。

     ふいに、神子は自分の望みに気づいた。
     毎日、自分が告発した家に帰って行くこの子に、常とは違う幾日かを与えたかった。
     そして、なんでもいい、命を惜しむ執着を見つけて欲しかったのだ。

    ――かつて殿下を失った神子が、浮世の美しさを見つけたように。
      
     酔いが回ってきた。まぶたが重い。
     この達成感は酒に勝ったからではないと、神子はわかり始めていた。
     

    ◆神子の勝利
     
     障子に透ける薄明かりに、神子は目を覚ました。いつの間にか布団で寝ている。きっと裟羅が運んだのだろう。
     昨晩の裟羅は、酔いが覚めたら帰ると繰り返していた。きっと夜更けにひとり九条の家に戻ったのだろう。天井を眺めながら神子は息を吐いた。
     のっそり起き上がると、布団に何かが乗っていて片側が持ち上がらない。視界の端に黒い塊が映っている。見ると、裟羅が布団の端にわずかに体を乗せ、自分の羽で体を包み眠っている。帰るの一点張りで、客用布団を固辞したから、羽を布団の代わりにしたのだろう。
     九条の屋敷に戻らず、ここにいたのだ。
     時刻は五時を少し過ぎたところで、巫女達の起床にはまだ時間がある。起きてるのは神子だけだ。

    「勝った」
     
    裟羅の寝顔を眺め、神子はニンマリと呟いた。
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