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    kouzikiyo168

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    kouzikiyo168

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    (創作)任務に行ってしまったロナウドの帰りを待つフェイの話。

    愛しい人を待つ話 いつも笑顔を絶やさない母であったが、時折寂しそうに遠くを見つめることがあった。当時の僕は幼いながらも、この時の母は父のことを考えていることが分かっていた。
     時折、弟や妹は母に尋ねることがある。
    「お父さんはどうしていないの?」
    すると母は決まってこう言うのだ。
    「お父さんはね、ここから遠い街でお仕事を頑張っているのよ。いつか沢山のお土産を持って帰るから、それまで待っていてと言っていたわ」
     しかし実際の父は、僕らが幼い頃に家を出たきり、一度も帰って来ることがなければ、手紙の一通すら寄越したことも無かった。
     もしかすると、父はもうこの世にはいないのではないか、または僕ら家族を捨ててしまったのではないか。僕はそう考えずにはいられない。しかし母は、どうしても認めたくないのだ。
     僕はそんな父に怒りのような、呆れのような感情を持っていたものだ。そんな父の帰りを何故、母はずっと待ち続けていられるのかも不思議だった。
     結局父は消息を絶ったまま、僕が災厄で故郷と家族を失っても尚、迎えに来てくれることはなかった。

     あれから何年も月日が経った。今の自分は、任務へと発ったロナウドの帰りを、もう何日も待っている。
     待つ立場になり、母の気持ちに思いを馳せるようになった。どんなに気丈に振る舞っていても、心のどこかで寂しさと不安が募るものなのだ。
     彼が自分を深く愛してくれていることは知っている。しかし自分は、彼に好意を伝えることも恥ずかしくてできないままだ。
     第一、彼はもっと豊満な胸を持つ女性が好きだった筈なのだ。いつか、男である自分は飽きられてしまうかな、彼がいない時間はそんな気持ちが湧き上がってしまう。ああ、以前のように共に任務へ行けないことがもどかしくて仕方がない。
     それでも、どんなに不安になろうとも、彼が自分のもとへ帰ってきて欲しいと願わずにいられないのだ。唯、無事に帰ってきてくれされすれば他には何も望まない。それ程に自分はロナウドを愛してしまっていた。
     今となっては、父には何の感情も抱かなくなってしまったが、どんな人だったのだろうと少し思う。
     母もきっと、父を心から愛していたのだ。たとえ周囲から何を言われようとも、愛する人を信じたかったのだと今なら思う。そんな母を誰が否定することができようか。

     そのようなことを考えた数日後の朝、ロナウドから今夜帰ると連絡を受けた。その日はずっとそわそわした心地で落ち着かなかった。
     やがて、彼のブロンドの髪を見つけると、自分は駆け寄りたい気持ちを抑えて彼を出迎える。彼の手をとり、その感触を確かめた。
     すると彼はいつものように「今帰った」と言ってから、唇に軽くキスをしてハグをしてくる。まだ少し気恥ずかしいが、恋人としては珍しいことではないので受け入れることにしているのだ。
    「…おかえり。今回、長かったネ」
    「おう、今回のはデカかったからよ、時間かかっちまった」
     そう言う彼の顔はガーゼが当てられており、手にも包帯が巻いてあった。エルピスの任務は時に命を失うことも少なくない。それ故に、彼が帰ってきてくれたことがなによりも嬉しかった。
    「ロナ、怪我…無理してないカ?」
    「てめーがそれを言うかよ?ンな事よりよ、この後、俺の部屋来い」
     そう言うとロナウドは再び自分のことをぎゅうと抱きしめ、耳元で囁いてきた。
    「しばらく会えなかったからよ、溜まってる。…シてぇ」
    まるで甘えるように発せられた彼の言葉に思わず「ズルイ」と溢す。
     以前ならどんなに尽くそうとしても拒まれてきた彼が、自ら自分を求めてくるようになったことが嬉しい。それが恋人としてというのがどうにも照れくさいところだが。
    「…もう、傷に障らないように、ネ?」
     今夜はきっとこの身に収まらない程、彼でいっぱいにされるのだろう。そう思うと、身体全体が熱を帯びてくる。
     ロナウドの腕をほどき、彼の碧い目を見つめた。数日間会えなかった寂しさや不安を口にしようとしたが、うまく言葉に出せない。彼の手を握りながら、ようやくひとつの言葉を口にした。
    「…おかえり」
    「おう」
    「おかえり……!」
    「…おう」
    そうして彼と額を合わせ、笑い合う。ここから先の伝えたいことは、彼が暴いてくれるのだろう。誰に似たのか、今はまだこの想いを言葉にできない弱さを許して欲しい。
     "僕"は再び帰ってきてくれた愛しい人と、眠りに落ちるまでお互いの存在に触れて確かめ合ったのだった。
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