Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    skr____p

    @skr____p

    PP🔰 もっぱら狡宜

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😊 🙌 👏
    POIPOI 2

    skr____p

    ☆quiet follow

    「伸元くん、学校楽しいのね」とおばあさまに言われて、狡噛くんとのことを考える話

    「伸元くん、学校楽しいのね」
     高等課程に上がって初めての夏休み、ダイムを連れて祖母の家を訪ねた。夏と言えど、外は雨で少し肌寒い。それでも夏だからと用意されたスイカは、食欲がなくなる暑い日に食べるのによさそうな甘さだった。学校はどう、と訊かれて答えたことについて、祖母は楽しいのね、と言った。おれは今の学校生活が楽しいのかどうか分からなくて、曖昧に微笑むくらいしかできない。そんなこともお見通しなのだろう、祖母はおれよりも楽しそうに笑って、
    「お友達の話なんて、したことなかったじゃない」
     と言った。
     友達というのは、狡噛のことだった。春に出会って、まだ二ヶ月ほどしか経っていないのに、あいつはすっかりおれの生活に馴染んでしまった。聞き慣れた言葉が聞こえたからなのか、ラグの上で寝ていたダイムが、おれの脇まで歩いてくる。
    「あら、ダイムも知っているの?」
    「何度か」
    「そう……」
     祖母はほんとうに嬉しそうに目元を緩ませた。初等科や中学でのことを考えると、自然とそうなるのは、わかる気がした。続く言葉は無かったが、嬉しさを噛みしめるように何度も頷いて、常温の麦茶をゆっくりと啜っている。
     祖母の友達という言葉を否定しなかったことに、自分でも驚いた。戸惑いが指先から伝わるのか、顎の下を撫でられているダイムが不思議そうに――いつもと違う触り方だと咎めたかったのかも――、おれを見た。
    「これから、もっと楽しくなるわね」
     素敵な友人ができたなら、みんなにも伸元くんの良さが伝わるわ。そうしたら、恋人だって。今はシステムで相性が分かるのなら、あなたにだってきっと。だって、あなたはおばあちゃんの自慢の孫だもの。
     嫌な幻聴だった。いや、実際そう言われたのかもしれない。祖母がおれを通して何を見ているのかはわからない。祖母はまだギリギリ、旧時代の青春を謳歌した時代で、そこで自由恋愛を積み重ねたのかもしれない。おれにもそれを求めているのかもしれない。
     おれには、狡噛との間にあるものが何なのか、よくわかっていなかった。友人だと言えば、そうだと思う。そこにはしがらみも損得勘定もない。そういった存在を友達と呼ぶのだというのは、知っている。けれども、狡噛は、おれにとってはいろいろと眩しすぎる奴なのだ。
    「楽しみだわ、伸元くんはどんな人と恋をするのかしらね」
    「気が早いよ……」
     戸惑ったように笑う。祖母は、そんなことありませんよ、と笑うだけだった。スイカの皮と種が載る皿を下げて、湯呑と一緒に洗う。その背中はずいぶんと小さくなった。自分が大きくなったのもあるだろうが、それだけではないなにかを感じた。七十代で人並み以上に健康とはいえ、生きていれば老いてくるということなのだろう。
    「おばあちゃんも会ってみたいわ、そのお友達に」
    「……え?」
    「気になるじゃない、どういう子とお友達なのか。それだけよ」
    「あ、うん……聞いてみるよ、今度」
     妙な緊張感を覚えた。なんてことはない、ただの友達を紹介するだけなのに、それはひどく勇気のいることのように思えた。狡噛に、祖母が会いたい、と言っていると伝えても、彼はすぐに頷かないような気もする。そもそも、ただの友達って、なんだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💞💖❤👏👏💙💚👍☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator