🛌「…………、最近、抜け毛が多い気がして」
こんなことを相談するのも、どうかと思うんだが。と前置きされて絞り出すように告げられた悩みに、プルソンは拍子抜けした。ロノウェさんってたまにちょっぴりお父さんみたいだ。
わざわざ人のいない所に呼び出され、賄賂のケーキ(甘くて美味しいぶどうのケーキだ。ロノウェさんは最近、王都のスイーツ巡りをしては俺たちによく分けてくれる)とお茶(練習しているらしい。アリトンさん程では無いけれど俺が淹れるより断然美味しい)を差し出してまで相談したいことが、これとは。
「それは……由々しき事態ですね」
「なにか気を使った方が良いんだろうか……」
「ロノウェさんいつもオールバックだからおでこ広くなったらすぐわかっちゃいますね」
「嫌なこと言わないでくれ」
どう考えても自分ではなく、人体に詳しいアンドラスさんやもっとおじさんの仲間に聞くべきでは?
頭髪に悩んだことの無い健康的な若者であるプルソンはそう思ったが、彼がとりあえず自分に悩みを打ち明けてくれるというのが嬉しいので真面目に考えてみる。
「うーん……季節の変わり目……って言いますけど、もう涼しくなってからだいぶ経ちますよね。いつからですか?」
「気付いたのはここ1週間ほどだな。ベッド周りの掃除をしてたら明らかに、その、量に違いが」
「じゃあちょっと違うのかな……あとはストレスとか?最近なにか変わったことありました?」
ロノウェさんって気苦労多そうだし、これが一番ぽいかも。でもこの人がストレスでハゲるなら、今思い返せば明らかにストレス過多だったメギドラル遠征の頃にさっぱりサレオスさんみたいになっていてもおかしくない。
サレオスさんはサレオスさんでカッコイイ人だけど、ロノウェさんの綺麗に撫で付けられた銀の髪が、同じ銀の鎧と共に反射して光るさまがヒーロー然としてまた唯一無二のかっこよさだから、無くなってしまったら惜しいな。
「ストレス……では無いと思うんだが、最近アロケルが勝手に布団に入ってくるんだ。暖かいし構わないと思っていたが、もしや良質な睡眠を妨げているのだろうか……」
「へえ、アロケルが……」
グリマルキンが勝手にさまざまなメギドのベッドに入り込んでは勝手にランキングをつけているという噂(プルソンのところにはまだ来ていない。寝相が悪そうという理由で候補から外されていることはプルソンには知る由もない。)は知っていたけれど、まさかアロケルもやっているとは。自由奔放なところや昼寝癖から猫のようだと言う仲間も時折居るけれど、これじゃ本当に猫みたいだ。
アロケルが本当に猫だったら、野良でもしぶとく生きていそうだし、暖かい家でセレブに撫でられながらゴロゴロしているのも似合う。きっと今以上に怠惰で、お魚が好きで、フワフワした銀色の長毛種なんだろう。
そこまで思考を飛ばしたところで、ふと気づいた。
目の前で思い詰めるロノウェさんの短く整えられた髪。時折凄い寝癖を跳ねさせたまま歩いているアロケルの伸ばしっぱなしの毛先。視界を遮らないからと上げられている前髪、いつもふよふよ揺れているアホ毛。
「ロノウェさん、それってもしかして、」
気温とかストレスとかじゃなく、もっと単純に
「……半分、アロケルの髪なんじゃないですか?」
ぽかんとして目から鱗を落としているロノウェさんのケーキに乗ったひときわ大きいぶどうを、どこからか現れたグリマルキンが奪って逃げていった。
【追記】
猫にぶどうダメらしいです‼️
こっちはそのままですけど元データの方はモンブランになりました。はやく涼しくなって欲しいですね。