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    新月朔

    主にmhykの作品(オー晶♀、まほ晶♀)を上げていく予定

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    新月朔

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    オー晶♀。
    タイトルそのまま。少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。

    眠れない晶ちゃんがオーエンと夜一緒に寝るだけの話時刻は午前0時過ぎ。
    魔法舎内はすっかり、しん、と静まりかえっていた。もうみんな眠っただろうか。それか、お酒を嗜む魔法使いは部屋で晩酌をしている頃だろうか。

    (眠れない…)

    もう大分前からこうしてベッドの上にいるが眠れず、晶は部屋を出た。目的地はキッチンだ。もしかしたらお腹を空かせた魔法使いが夜食を探しに来ているかもしれない。または道すがら誰かに会えるかもしれない。
    なんとなく、晶は寂しかった。外の風と空気のせいかもしれない。今日は日本の秋頃の空気に似ている。秋のその雰囲気だけでなんとなく寂しい気持ちになるのだから本当に不思議な季節だと思う。
    誰かに少しでも会いたくて、もう真っ暗な廊下を通り、キッチンを目指す。
    残念ながらキッチンには誰もいなかった。それどころか、つい先程まで誰かがいた、という痕跡すらなかった。
    こればっかりは仕方がない。ホットミルクでも用意しようと準備を始めた時、不意に背中に気配を感じた。

    「!オーエン…」
    「こんばんは、賢者様。こんな夜中に何してるの」

    晶の真後ろにはいつの間にかオーエンがいた。相変わらず真意の読めない表情をしていたが、いつも通りの彼を見て、なんだか晶はほっとした。

    「こんばんは、オーエン。ホットミルクを用意しようかと思って準備していたんです。オーエンも飲みますか?」
    「うん。僕のは舌がざらざらいうくらいとびきり甘くして」
    「ふふ、分かりました」

    晶が飲み物を用意している間、オーエンは近くの椅子に長い足を組んで座っていた。彼は待っている間、不思議と静かだった。特に会話という会話はなく、そのことに少し疑問に思ったが、もう夜だし、眠いだけなのかもしれない。
    ホットミルクができ、昼過ぎに作ったクッキーの余りを取り出して、オーエンが腰掛けている前のテーブルに置く。晶もオーエンの隣に腰掛けた。

    「このクッキーまだないの?全然足りない」
    「今日…いや、昨日か。作った余りなので…すみません、また作りますから…」
    「今作って」
    「えっでももう遅いですし…私もこれを飲んだら寝ないと」
    「眠れないのに?」
    「えっ」

    驚いて彼の方を見る。何故、私が眠れないのを知っているのか。疑問に思って首を傾げていると、オーエンは私の目元を指さして、

    「最近夜な夜なキッチンに来てはこの辺をうろうろしてるだろ。あとその隈」
    「えっ!オーエン、知ってたんですか?」

    たまたまだよ、と言いながら最後の1つになってしまったクッキーをバリバリと音を立てながら頬張る。気付いていたなら声を掛けてくれたら良かったのに。そのことを知って、何故だか少し胸が痛んだ。

    「ねぇ、もう甘いのないの?」
    「え?うーん…あ、そういえば私の部屋にこの間中央の国にあるケーキ屋さんで買ったマドレーヌがまだ少しあります。…でもオーエン、こんな時間にそんなに食べてたらお腹痛くなっちゃわないですか?」
    「胃を若くしてるから問題ないよ。ほら、早く行くよ」

    そういう問題?と思ったけれど、オーエンが立ち上がってさっさと歩いて行ってしまったので、私は少し冷めてしまったホットミルクを持って急いで彼の後を追いかけた。



    寂しさを感じる風が吹く夜。私はオーエンと真夜中のお茶会をしている。
    お茶会と言っても飲み物は少し冷めたホットミルクだし、美味しいケーキ屋さんのマドレーヌはオーエンに全て奪われてしまった。
    夜だけどオーエンはパジャマじゃないから、パジャマパーティではないけれど、こんな時間にオーエンと部屋で2人きりなんてとても珍しい。
    オーエンはお菓子を食べるのに夢中であまりおしゃべりをしてくれないけれど、それでもオーエンが近くにいてくれることがとても嬉しかった。

    「ごちそうさま」
    「えっオーエン、帰っちゃうんですか?」
    「もうお菓子ないんでしょ?ならもう用はないし、帰るよ」

    用がないから帰る。当たり前のことだ。だけどまだ眠れそうにないし、もう少しオーエンと一緒にいたい。お話がしたい。そう思った。

    「あの、もう少しおしゃべりしませんか?温かい飲み物もまた用意するので…」
    「嫌。僕ももう眠いんだけど。眠れないならさっさと薬でも飲んで寝ればいいだろ」
    「うーん…薬には出来るだけ頼りたくなくて…」

    薬。いざという時は服用するけれど、あまり薬に頼り過ぎると依存してしまいそうなので、出来るだけ避けている。それに今日はお休みなので、無理に薬を飲む必要はないだろう。

    「はは。可哀想な賢者様。夜になっても満足に寝付けなくて、まるでミスラみたい。賢者様もミスラと一緒に寝てみれば?眠れるかもよ」
    「生憎ミスラは数日間ルチルたちと任務に出掛けておりまして…」
    「ふん。相変わらず役立たずなやつ」

    ミスラは厄災の傷で眠れなくなってしまっているが、私のはただの不眠症の類だろう。
    実は最近、夜になかなか寝付けない日が多発している。そのくせ日中は睡魔に襲われるからとても困っているのだ。いや本当に困る。任務先や、偉い人と話し合いをしている時は頭が働いていないと大変だ。そういう大事な日は薬に頼ることもあるが、なんとかして自然に治したい。
    ミスラと聞いて、あるワードがふと頭に浮かんだ。

    「………あの、オーエン」
    「…何」
    「あ、あの…えっと……」
    「なんだよ早く言えよ」
    「こ、今夜、い、一緒に寝て、くれませんか…!!」
    「………は?」

    部屋のドアの方に体を向けていた彼が、驚きからか、こちらに振り返って目をまんまるに見開いて驚いている。

    「わ、私の世界に添い寝フレンドっていう言葉がありまして!隣で寝るだけで良いんです!変な意味では決してなくて」
    「はぁ?当たり前だろ。僕がそんな変なことするわけないだろ気持ち悪い。ていうか、お前本当に馬鹿なの?北の悪い魔法使いと一緒に寝るなんて」

    気持ち悪い。無理を承知で言ってみたけれど、悲しいような、腹が立つようなその物言いに、何故だか私もついムキになって、

    「…ですよね。じゃあ、ミスラが帰ってきたらミスラと寝ます。その間はオズと寝ます。お二人は北出身のとても強い魔法使いなので、きっと一瞬で眠れると思いますし」
    「ミスラとなら眠れるわけ?」
    「少なくとも一週間前は眠れました」

    まぁ、その日はいつものミスラの頼みで手を握っていたらそのまま私も寝落ちしてしまっただけなのだが。それに一週間程前までは私も普通に眠れていたので、添い寝フレンドとしての効果(?)があったかどうかは分からない。いや、さっきはカッとなってああ言ってしまったが、そもそもソフレに強さは関係ない。
    オーエンの視線が鋭く突き刺さる。きっと自分より強い2人と比べられて怒っているのだろう。

    「僕がオズやミスラに劣るわけないだろ」
    オーエンが大股でこちらに近づいてくる。そう思った瞬間、部屋の天井が視界に広がった。
    「≪クーレ・メミニ≫」
    呪文を唱えると彼の服が寝間着へと変わった。急な展開にぱちぱちと瞬いているとオーエンがベッドに乗り上げてきた。
    「もっとそっちに行けよ。狭いだろ」
    「え…え?」
    「お前が言ったんだろ。僕と一緒に寝たいって」
    呆れ半分イライラ半分。
    言葉だけ聞くとすごい誤解されそうだ、と一瞬思ったが、さっきの私の言葉が刺さったのか、オーエンは嫌々ながらも一緒に寝てくれるようだ。嬉しくなって急いで壁の方に寄る。
    「ありがとうございます!オーエンとなら安心して眠れそうな気がします」
    「いいから早く寝て、オズとミスラは必要ないってこと証明してみせろよな」
    すぐ近くにオーエンがいる。
    ちらりと横目で彼の方を見ると、こちらに背中を向けて横になっていた。強くてかっこよくて頼りになるその背中をぼんやりと眺めていると不思議と心が落ち着いた。
    私はそのまま夢の中へと落ちていった。

    翌朝。
    昼になっても姿を現さない私を心配して部屋に来たカインが、私のベッドにオーエンがいたことに驚き、声を上げ、その声で目が覚めた私はいつの間にかこちらを向いて眠っていたオーエンの顔を至近距離で見てしまい、悲鳴を上げた。
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