というより従順な犬のような「ねぇあそこに座ってる人、めっちゃイケメン」
「声掛けに行ってみたら?」
「えーでもちょっと怖そう…」
かわいいスイーツが多く並ぶ安価なブッフェスタイルのお店の中は、平日の昼下がりということもあって高校生や若い女の子達で賑わっている。
近くにいた女の子達のヒソヒソ話が耳に入り、彼女らの視線を追うと、端にある席にパキッとした見るからに高そうなスーツを着た銀髪の男性が1人で腰掛けていた。
「怖そうだけど、甘いものが好きなのかな?」
「えーギャップ〜かわいい〜〜!」
確かに男性の前にはこれでもかというくらい、テーブルの上にスイーツが所狭しを置かれていた。これを1人で食べ切るのは大変そうだ。となると、きっと連れが…
「オーエン、お待たせしました」
「おほぃ。ひあんははいふい」
「何言ってるか全然わからないんですけど…」
やはり連れがいた。
ドリンクとパスタを片手に現れたのはぱっと見、優しそうな普通の女性。
カップル、というよりは知人?2人の雰囲気からして恋人同士という風には見えなかった。
「ねぇ、これと同じの取ってきて」
「わかりました…うう、私が食べる暇がない…」
渋々女性が再び席を立つと、オーエン、と呼ばれた銀髪のイケメンは視線だけ彼女に向けてまたスイーツをつつき始めた。でも、あれ?あのスイーツは全部彼が食べるのか…?
(あ、)
女性がいなくなったのを見計らってか、先程の女の子達が急ぎ足で男性に声を掛けに席に向かっていくのが見えた。
「あの、すみません!」
女の子達はおずおずとオーエンさんに声を掛けた。
オーエンさんは女の子達をちらりと見ただけで視線をすぐにスイーツの方へと戻した。
「何。僕忙しいんだけど」
「あ、えっと…」
オーエンさんから発せられた言葉は実に冷ややかで、明らかに話しかけるなオーラが漂っていた。
「さっさと消えて」
鬱陶しさと面倒くささを隠さず、再びオーエンさんが女の子達を見やる。
物凄く冷たい視線を浴びせられて、女の子達は失礼しました、とだけ言って自分の席へと戻って行ってしまった。
程なくしてオーエンさんの連れの女性が、彼が先程頼んだスイーツを持って戻ってきた。
「あれ、いいんですか?お話ししなくて」
「ふうわえあいはお」
「口に食べ物入れたまま話さないでくださいよ…」
「ん…、お前が先に話しかけてきたんだろ」
彼女はその後もパシリのようにオーエンさんに頼まれたスイーツを持ってきていたけれど、会話は穏やかそのものだった。
先程の女の子達と対応の差が激しい…。
でも、気付いてしまった。
彼女が最初に席を立つ時、彼女に向けていたオーエンさんの表情がとても柔らかいものだったということに。
恋人同士じゃないのかもしれないけれど、オーエンさんにとって、彼女は特別な存在なんだろう。