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    新月朔

    主にmhykの作品(オー晶♀、まほ晶♀)を上げていく予定

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    新月朔

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    オー晶♀
    以前書いた『隙なんか作るわけないだろ』よりも前のお話。
    以前のお話を読まなくても、お読みいただける内容となっています。
    糖度は低め。
    ネロ、ラスティカ、ルチルが友だちとして登場します。
    その他モブも喋っています。
    なんでも許せる方のみ、ご覧くださいませ。

    あなたと仲良くなりたい「賢者様、今回もお疲れ様でした!」
    「こちら、賢者様のお好きなお飲み物です」
    「ありがとうございます。でも、皆さんのおかげで無事任務が完了したので、お礼を言わなければいけないのは私の方ですよ」

    穏やかな風が吹き、星がきらきらと輝く夜、私たちはとある町のお祭りに参加していた。
    先日、魔法舎にこの町から一通の手紙が届いた。内容は、最近この町の近くにある森で魔物が出るようになったので討伐して欲しいというものだった。
    厄災の影響を受けたであろう魔物は、ネロ、ラスティカ、ルチル、そしてオーエンのおかげで無事討伐成功。誰ひとり怪我をすることもなく任務は完了した。

    そのことに感激した町長さんが、私たちをもてなしたいということで、近々開催されるこの町の歴史ある祭りに是非参加していって欲しいという、嬉しいお言葉を頂き、今日私たちはこの町を訪れていた。

    「賢者様、それに賢者の魔法使いさんたち、今日はたくさん楽しんでいってください」
    「ありがとうございます、町長さん」
    「賢者様!こちらをどうぞ!この町で採れた新鮮な野菜の盛り合わせです!!」
    「あっ…はい、ありがとうございます!いただきます」

    町長さんと話し終えた瞬間、続々と町の人たちが私のところにやってきた。
    新鮮な野菜。とても鮮やかな緑色のジュース。野菜スティック…。

    「まぁ!とても美味しそうなお野菜!」
    「野菜ばっかりだな…」
    「どうやらあちらには果物も用意されているようです。あ、スイーツもありますね。オーエンは既にそちらに向かわれたようです」

    魔法使いのみんなが話している間にも続々と私の元へと運ばれてくる新鮮な料理の数々。その料理数は既に10は超えた。

    「流石に野菜ばっかりはキツいだろ…持って帰れそうな料理は持って帰ってあいつに食わせるか…ああ、これ、俺たちも食べるから賢者さんは好きな料理取ってきな」

    遠慮すんな、とネロたちに見送られ、どこに立ち寄ろうか迷ったが、折角なら彼の所に行って声を掛けてみようと思い、歩き出した。
    先程ラスティカが指差した所で彼は美味しそうなスイーツを次々に口に運んでいた。
    彼に近付いて声を掛けようと思った時、その彼の隣にもうひとり、人影がある事に気付き、足を止めた。
    この町に住む女性だろうか。若干この町の雰囲気とは違う、華やかな出立ちの彼女は、しきりにオーエンに話しかけているようだった。

    「オーエンさんは本当に甘い物がお好きなんですね…あ!あなたが今手にしているお菓子はこの町の名物でして、今回は私も作るお手伝いをしたんですよ」

    女性が話し掛ける横でスイーツを貪り続けるオーエン。恐らく、あれは彼女の話をまともに聞いていない。
    オーエンがずっとその様子なので、女性の表情から苛立ちを感じた。そして急に話の話題が変化した。

    「私、賢者に興味がありまして。それにまつわる本を読んだり独学で勉強しているんです」

    一瞬、オーエンの眉が動いた気がした。

    「賢者は異世界から来た者しかなれないって、私はそんなことないと思うんです。私が…私が賢者になります。私が賢者になって、賢者の魔法使いの皆さんを導きます。そうすれば今の賢者様も少しは肩の荷が降りるんじゃないでしょうか?異世界からたったひとりで来て、急に知らない世界で暮らすことになって、大変だと思うのです。だから彼女にはゆっくり休んでいただいて…」

    彼女が…賢者に?
    そう言い放った彼女の隣で男は鼻で笑った。

    「お前が?僕たちを導く?」

    男の顔は、実に楽しそうで、意地悪で、でもほんの少し機嫌が悪いような、不思議な表情をしていた。
    急にオーエンがこちらを見やる。バチッと視線が混じり合い、私は思わず肩を振るわせた。

    「あそこで突っ立っている賢者様は僕のおもちゃなんだ。夢の森の毒を浴びせたり、賢者様の部屋を燃やしたり、虫まみれにしたり」
    「えっど、毒!?燃…!?」
    「お前は僕のおもちゃになるに相応しいかどうか、試してあげようか」
    「お、オーエン!」

    オーエンの発言を聞き、私は思わず2人に駆け寄って声を掛けていた。これ以上彼女を怖がらせてはいけない。

    「やぁ、賢者様。いい夜だね」
    「こんばんは…じゃなくて、あまり町の人たちを不安にさせるようなことは…」
    「ちょうど暇してたんだ。賢者様、僕と遊ぼう」
    「え?」

    そう言った次の瞬間、私たちは空にいた。足元に地面がないことに気付き、恐怖し、無意識に足をばたつかせた。

    「あわわわああ」
    「なにそれ、踊ってるの?」
    「お、おどってない!です!ぎゃーーー回さないでえええええ!」
    「あはは!あっちの方で町のやつらも呑気に踊ってるよ。ほら」
    「じゃじゃじゃあわたしたちもしたに」
    「お前ダンスも出来ないの?ふふ、賢者様、壊れた操り人形みたい」
    「だだだんすなんてやったことないですもんんんん」

    オーエンは終始楽しそうで、嫌がる私の手を取って勝手に踊り出し、リードまでしてくれた。ラスティカの演奏に合わせて踊っている。相当ご機嫌なようだ。

    初めこそ空中で踊るなんて怖くて難しくて、オーエンにしがみつくことしか出来なかったけれど、オーエンの流れるような美しい踊りと、夜空にきらきらと輝く星々が彼の後ろに広がっているのが見え、思わず目を奪われた。まるであの星たちは彼のために光輝いているかのようだ。

    私は無意識のうちにオーエンを見つめていた。彼から一瞬たりとも目が離せない。見惚れて、言葉を失う。

    「何?余裕そうだね、賢者様」
    「えっ!!全然余裕じゃないですオーエンが綺麗で思わず見惚れてただけで」
    「相変わらず呑気でお人好しな賢者様」

    呑気…はわからなくもない気がするけれど、お人好し?
    思わず首を傾げる。

    「自分のことより他人の心配をするなんてさ。お前、賢者の座を狙われていたのに。賢者はお前じゃなくてもいいってさ」
    「あ…ええと」
    「早く賢者を辞めて元の世界に帰りたい?僕の厄災の傷も治せていないのに?酷い賢者様」

    先程までオーエンと話をしていた女性との会話を思い出す。彼女は私には休んでもらって、代わりに彼女が賢者になると言っていた。
    彼女は私のことを気遣って賢者に立候補したのかもしれないけれど…。

    正直、そんな気遣いは無用だ。
    任務や報告書作成とか、大変なこともあるけれど、それ以上に賢者の魔法使いたちと仲良くなりたい。大切に想っているし、大事な友だちだ。
    私はこの世界の人間ではないから、いつかはみんなとさよならをする時が来るだろうけれど、今はまだ、彼らから離れたくない。私のわがままだけれど。

    それに、私の賢者の書の彼のページは未だ寂しいままだから。

    「何?変な顔して」
    「え!?そ、そんな変な顔してました…?」
    「してた。お前が猫と戯れている時と似たような顔。僕の話より猫の方がそんなに大事なんだ?酷いね」
    「ええ!?ね、猫のこと考えてないです!オーエンの話はちゃんとぎゃーーー振り回さないでえええええ!!!!!」
    「あはは!」
    「うっ…さっき食べたサラダとジュースが…」
    「…は?ちょっと。お前こんなので死にそうなの?弱すぎじゃない?ねぇ。賢者様、ねぇってば」

    そういうとオーエンはすぐに私を下に降ろし、酔ってしまった私をルチルのところに連れていってくれた。
    私がオーエンと話をしている間にお祭りは終わりを迎えていて、私たちは町長さんにお礼を伝えて魔法舎へと帰った。

    魔法舎に帰ってからネロが苦い顔をして教えてくれたが、私のところに野菜がたくさん運ばれてきた原因は、オーエンに話かけていたあの女性、町長さんの息子さんのお嫁さんの指示だということが分かった。
    彼女の本当の目的は賢者になるということより、賢者の魔法使いが目当てで、賢者になった暁には賢者の魔法使いと結婚をし、魔法使いたちを従わせるつもりだったらしい。

    きっとこういう人は少なからずいるんだろうな、となんとなく思っていたけれど、今回の件で、今までより警戒は強くしておいた方がいいな、と思った。



    翌日、私は遅めの朝食を取っていたところに、たまたま通りかかったルチルと昨日の件で盛り上がっていた。

    「そういえば。賢者様ってオーエンさんととっっっても仲良しさんなんですね!」
    「ん!?げほっ」

    突然のルチルの発言に私は思わず頬張っていたパンを吹き出すところだった。大丈夫ですか?と声を掛けながら背中をさすってくれるルチルは本当に優しい。

    「そ、そうですかね…私結構怖がって悲鳴を上げていたと思うんですけど…」
    「町の人たちもおふたりが楽しそうに踊っている姿を見て踊ってらっしゃいましたよ!私もたくさん踊っちゃいました!…あれ?怖かったんですか?」

    何故だ…もしかしてお祭りだからみんなお酒飲んで酔っ払っていたのかな…?
    そうだったとしても、仲良く見えていたのなら嬉しい。

    「あ、でも…町長さんの息子さんのお嫁さんは途中で具合が悪くなってしまわれたようで、お祭りが終わる前に帰ってしまったようです…」
    「えっ」
    「なんでも、高所恐怖症らしくて…」
    「ああ…」

    彼女が高所恐怖症を克服しない限りは警戒を緩めても大丈夫そうかな、と心の中で思った。


    朝食を終え、中庭に出ると見慣れた白があった。
    爪先でコツコツと一定のリズムで刻み、両手でたくさんのカーケンメテオルを抱えていた。
    かなり上機嫌らしい。

    「こんにちは、オーエン。すごい量のカーケンメテオルですね」
    「何?あげないよ」

    大丈夫ですよ、と言いながら私は、先程朝食の後にネロお手製のカーケンメテオルを食べたことは、なんとなく言わないでおこう、と思った。

    「僕に何か用?」
    「そうだ!オーエン、昨日はありがとうございました。オーエンのダンス、すごく綺麗でした」
    「うん、僕も楽しかった。賢者様が情けない声を上げて僕に縋り付く姿を眺めるのは」
    「うっ」

    そう言いながらオーエンは残りのカーケンメテオルを魔法で宙に浮かばせ、流れるように私の手を取った。そして、そのまま引きずるように、空へと引き上げられる。

    「ちょ、オーエン!?」
    「また情けない悲鳴を上げてくれる?賢者様?」

    相変わらず意地悪だけれど、昨日結果的に私を選び、手を取ってくれたのは嬉しかった。少しは私を必要だと思ってくれているのかな。おもちゃではなく、友だちと思って欲しいけどね。
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