ありふれたトラブルの話それが起こったのはほんの少しムルソーが不意を突かれて体勢を崩した時だった。
ひらひらと舞いながらグレゴール達に近寄って来ていたリボンが突然方向を変え、ムルソーへ向かって行ったのだ。
グレゴールが思ったのはまず「ヤバい」と言うただ一言だけだった。
その場に居たヒースクリフもダンテも同じ事を思っただろう。
桃色のリボンに締め付けられている奴隷が尚もムルソーに踊るように追撃を与えているのを見て2人は急いで駆け寄った。
桃色の欲望と言う名のこの幻想体の厄介な所は味方を操ると言う事だった。
空中を漂っていたリボンはその為の物だ。
それがグレゴール達を追い越してムルソーにびたびたと張り付き、やがて一本のリボンになってムルソーの体を覆っていった。
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