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    kurokuros_r

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    夏の話

    夏季休暇の時期も近づいてきたある日。
    ポン、と。机の上に置いたスマホが小さな音をたてる。
    手に取り画面を覗き込めば、そこには父親からのメッセージ通知がひとつだけ表示されていた。
    その表示に少しだけ躊躇ったあと、タップしてそれをひらけば『今年はいつ頃に帰省するのか』といった内容が淡々とした文面で綴られているのが目に入る。
    この時期の通知なので多少予想していたとはいえ、自然と困ったような顔になり、そのまま文面を眺めてしまう。
    長期休暇には必ず帰り、顔を見せる……そういう約束でここへの進学と入寮の許可をもらった為、これは避けられるものではない、が……やはり気が重い。
    あの家はどうしても息が詰まるから。
    異物に対する義母や義兄の態度、別の何かを含んだ父からの視線。あまり、気にしないようとはしているが……
    できるだけ滞在する時間は短い方がいいな、なんて考えてしまう。その方があの人達にとってもいいんじゃないか、とも。
    「うーん……」
    去年は他の帰省をする人達と同じような時期に帰ったけれど、ただただ夏が終わるのを待つだけの日々だったように思う。ここに来る前はそれが当たり前だった筈だろうに。
    ……なんてことをぼんやりと思い出しながら、さて今年はどうしようか……と、カレンダーへと視線をうつした。
    7月と8月の日付が並ぶそれの、どう足掻いても夏季休暇真っ只中の8月の始めと終わりの数字を見つめる。それぞれの生まれた日にあたるそれらの数字。
    自分の誕生日は……母親が亡くなってからは、あまり祝われるような事はなかったのであまり気にしないとして、できるならば鯨雄の誕生日は一緒に祝いたい……
    「……鯨雄の予定を聞いてから決めるか……」
    きっと落ち着いた頃に帰省するのだろう。
    プラネットの練習や打ち合わせもあるだろうし、鯨雄に予定を聞くのはおかしなことではない、はず。
    向こうに合わせて帰れば、すこしでも長く夏を共に過ごせる。
    そう思えば少し心が楽になったような気がした。
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