五月雨宿り空は灰から黒へ、不機嫌な唸り声を上げながら降り続く雨を前に五月雨江は一振、人の気の無い襤褸屋の屋根で雨宿りをしていた。
万屋に用があった。歌を詠むための墨汁が無くなったので買い足しに来ていた。
墨汁と短冊和紙の入った紙袋に目線を落とすと、中身が寂しそうにカサリと音を立てた。そうですよね。私も早く貴方達を使ってあげたいです。
だが、そんな気持ちを無視して稲光が空で哭いている。これでは中々帰れそうにないではないか。
「……困りましたね」
五月雨がそう呟くと、彼の不満に文句をつけるように風が彼の体を突き飛ばすかのようにぶつかってきた。
「!っ…ぅわっ!」
───ガタン。
五月雨の口から小さく漏れた声と、共に雨風がぶつかった襤褸屋の入り戸が声を上げたのは同時だった。
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