2 照らしてよ、ペリドット「……身代わり、だなんて……どうしてそんなこと………」
自分の提案に呟くようにそう言った彼は、それきり口を閉ざしてしまった。元々こぼれそうなほど大きな瞳は更に大きく見開かれ、戸惑いに揺れている。まるで行き先を見失い、どうして良いか解らない迷子のようだ。
この反応も当然のことだ。彼はこちらのことなど露ほども知らないのだから。彼の兄へ対する想いを、自分がついさっきまで知らなかったように。
彼は怯えていた。兄への思慕を後ろめたいものだと考えているのだ。それを実の弟に勘付かれたのだから、それは平常ではいられないだろう。いくら同性愛が認められつつある世情であるとはいえ、大人と子供の狭間にいるモラトリアムの若者たちにとってそれはまだまだ異質なものなのだ。だから彼は恐らくそれをずっと内に抱え、いけないものだと思いながらも捨てられずに苦しんできたのではないだろうか。
7058