ロスライクルー人間夢主♀のス力ベンルート導入部メモナイツ・オブ・サイバートロンを探し求めて旅を続けるロストライト号は、物資補給の為に立ち寄った惑星を離れて再び暗闇の宇宙へと旅立っていた。
「さすが観光スポットとして有名なだけあって賑わっていたな」
「楽しかったね、ドーミィ」
停船中に街へ出掛けたクルー達は十分に羽を伸ばしてリフレッシュした様子だった。クロームドームとリワインドも例に漏れず和やかに思い出話に花を咲かせる。
だが、ふとクロームドームは表情を曇らせて懸念を露わにした。
「ひと時のリゾートを楽しめたのは、奴が予想外に大人しかったからっていうのもあるが……」
「確かに。あいつが観光に行きたがるのは勿論、問題を起こさず戻ってくるなんて……意外すぎて気味が悪いよ」
クロームドームの言葉にリワインドが発声音量を下げてこっそり返す。どちらも"奴"の名前を口にする事すら憚られるようだ。
そんな二人の背後から大きな影が覆い被さった。
「へえ。それは一体誰の事なんだい。俺に教えてくれよ、おチビちゃん」
「ひ…!」
「オーバーロード!リワインドに近付くな!」
突如現れたオーバーロードに警戒を強めるクロームドーム。怯むリワインドを背に庇いバイザーの奥から鋭い視線で牽制するが、オーバーロードは全く気に掛けていない。
それどころか上機嫌でさえある。愉快そうに笑いながら、両手の指を組んで前方へ突き出し軽くストレッチを行った。
「そう殺気立つな。せっかくリゾート地でフラストレーションを解消したというのに……身体が疼くだろう」
ロストライト号のクルーとして無理やり加入したオーバーロードは日々戦闘欲求を抑えていた。
訓練所がメチャクチャになるまで暴れたり、ナマエをからかったり、キツめのエンジェックスを煽ったり、ナマエをいじったり……と気を紛らわせていたが、やはりオイル沸き立つ戦闘の先の勝利こそ何にも変え難い。
「そこまでだぜ、イカレ野郎」
オーバーロードが装備している砲門を全て開けようとしたその時、通路の奥から制止の声が放たれた。
声の主であるロディマスがわざとらしく足音を響かせて注目を集めながら両者の間に割って入る。
「クルーに絡むのもいい加減にしとけよ。お前は仕方なく船に乗せてやってるんだぜ」
「『"束になっても俺に太刀打ち出来ず"仕方なく』……な?」
変え難い事実に反論できないロディマスは狂気が渦巻く赤いオプティックを睨みつける事しか出来なかった。
あのニヤついた面を思い切りブン殴ってやりてえ、とロディマスが屈辱に歯噛みしていると、突然ハッとしたオーバーロードは身体の至る所のハッチを開けて自身の内部を手探りしたのち静かに呟いた。
「いない」
オーバーロードの唐突な行動に、訝しげに顔を歪めたロディマスが腕を組み鼻を鳴らす。
「何だよ、あの惑星に忘れ物か?生憎だが戻ってやらねぇからな。燃料の無駄だ。お前がこの船に乗っていたいってんなら諦めろ。これは船長命令だからな。ご愁傷様だぜ。…………、」
けっ、と吐き捨てるように捲し立てたロディマスは踵を返して今後の進路の打ち合わせに向かおうとしたが———オーバーロードの物言いが妙に引っ掛かり足を止める。
「おい。『いない』だって?『ない』じゃなく?」
振り向いてオーバーロードに詰め寄るロディマス。
「おいおい。そりゃまるで『忘れ物』っていうより『忘れ者』じゃねえか?」
んん、と唸りながら顎に手を添えて考え込む様子のオーバーロード。
「おいおいおい。お前と仲良く観光に行くような酔狂な奴はこの船にはいない筈だぜ。その上でお前がよくちょっかい出してる人物と言やあ……」
「おーい、みんなー!」
そこに、離れた場所から明るい声が響いた。
テイルゲートが片手を振って歩み寄ってくる。
「ねえ、ナマエが何処にいるか知らない?彼女、船から降りちゃダメってルールなんだろ?それは可哀想だからお土産をいっぱい買ってきたんだ! でも、ナマエの部屋にも診療室にもスワーブスにもいなくてさ……早く渡してあげたいのに」
お土産を受け取ったナマエが喜ぶ姿を想像して期待に胸を膨らませるテイルゲートとは逆に、嫌な予感に襲われたロディマスの顔色はどんどん悪くなっていく。
そんな二人に構わずオーバーロードは決定的な発言をした。
「ナマエを俺の身体の中に入れてあの惑星へ連れ出した後、回収するのを忘れて戻って来てしまった」
「何ィーーーーッ!?」
「小さすぎて視界から消えたらつい、な。ハハハ」
「笑ってる場合か!!コントロールルーム!進路変更だ!すぐに引き返せ!」
通信を飛ばしながら慌てて走り出すロディマスを始めとしたクルー達の背を眺め、オーバーロードは「まあ生きていれば再会する事もあるだろう」と悠々と構えていた。彼が抱き続けている目的を達成するのにナマエの生死は関わらないからだ。
斯くして、ロストライト号は出立したばかりの地を目指してUターンする羽目となった。
ナマエがスカベンジャーズと遭遇しWAP号で保護をされ、既にその惑星から旅立っている事も知らずに。