留守番「炭治郎?居ないのか」
城の障子戸を潜り、とある宿の一室へと足を踏み入れた私は辺りを見回した。
炭治郎は単独任務時、私が訪れても良いようにと藤の花の家でなく一般の宿に泊まる。
この部屋に居るのは鳴女の血鬼術で確認したのに、先程の今で何処かへ行ったのか。
「厠か?……ん」
ひとしきり見渡した後にふと目を落とすと、敷かれた布団の枕元にある市松模様が目に入った。
「……」
徐に掛け布団の上へ腰掛けつつ、丁寧に畳まれた羽織を引き寄せる。
顔を埋めると、持ち主の香りが鼻腔をくすぐった。
「……早く来い」
◆◆◆
宿の風呂で汗を流し、浴衣に着替えて借りた部屋へ向かう。歩みを進めていく内に、ふと知る匂いが鼻を掠めた。
1217