ものの声が聞こえる大倶利伽羅の話 ある日、大倶利伽羅は顕現した。
降り立ったのは古き良き日本家屋。火の匂いと鉄の火花の散る鍛刀場で、驚く人の子の姿と静かにこちらを見る刀の姿があった。
しかし、それだけではなかった。
「気分の優れないところはあるかな」
人の子のいうのに大倶利伽羅は視線をさまよわせた。己が呼び出された場所を注意深く見渡し、そして目前のふたつのひとがたに視線を写し、最後に足元を見た。
「……別にない」
大倶利伽羅には無数の魂が見えていた。
それは槌に宿る魂であったり、石に宿る魂であったりした。人の子の纏う衣服や鋼の身につけた武具や、踏みしめた床石、簡素な机にいたるまで、部屋中でざわざわと声がしていた。人には見えぬがある程度生き物の形を持つ無生物もおり、交わす声は遠慮もなく大きいので全てが混ざりあい喧騒の様相であり、ひとつひとつの声を正確に聞き取る事は難しかった。
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