うなぎって美味しいな ぱちり、と布団の中で目を覚ます。
枕元に置いてあったスマホを見れば、PM16:30の文字が目に入る。
激務続きの中、ようやくやってきた休日。お昼前には起きる予定だったはずが、何故か夕方の時刻。
のそのそと布団から這いだし、最低限の身支度をはじめる。
土用の丑の日からだいぶ過ぎてしまったが、今日こそはうなぎを食べようと思う。
ぼさぼさの髪を手櫛で軽く整える。今から行けば、夕飯前の混む前に店につけるはず。
財布に忘れず諭吉さんが入っているのを確認し、スマホと一緒にズボンのポッケに入れて家を出た。
夏の夕方、日はまだ沈まず蒸し蒸しとした空気が体にまとわりついてくる。
近場だからと歩きにしたのは失敗だった、帰りは絶対タクシーにしよう。蒸し暑い中歩いて10分、ようやく目当てのお店に着いた。
ガラガラと店の引き戸を開ける。ひんやりとした空気と、店のおばちゃんのいらっしゃいませの声が出迎えてくれる。
昔ながらのあったかい雰囲気のお店。案内された席に座って、お品書きを開いた。
(タレと白焼どっちにしよう…、………。)
「えっと、すみません、あの、タレ、あっと、竹の鰻重一つお願いします。」
毎回、タレか白焼きで迷ってタレにしてしまう。
(今度来た時は白焼きにしよう。)
そう思いつつなんとなく次もタレを頼む気がする。お品書きをたたんで机の隅に寄せてると、店のおばちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「これ、サービス。良かったらどうぞ。」
お茶と一緒にサービスで骨せんべいが出された、嬉しい。お礼を言ってポリポリ食べる。出された冷たいほうじ茶とあって美味しい。
うなぎの骨で作られる骨せんべい。久々に食べるとなんかすごく美味しく感じる。レジ横で売ってた気がするので、帰りに買って帰ろう。
最後の一本をポリポリと、ちょうど食べ終わった頃合いにうな重がきた。
「えいっ」
お重の蓋をぱかりと開く。毎回この瞬間が一番楽しい。
ふっくら焼かれたうなぎがお重にみちみちと詰められ、タレたっぷりとご飯の上に鎮座している。身に箸を入れればスッと綺麗に切れる。一口食べれば柔らかな鰻とタレの味が口いっぱいに広がった。
(…美味しい。)
骨もなく、身は柔らかくふっくらしている。
(やっぱりスーパーとかで買うのと全然違う。)
もくもくと食べ進め、箸休めに小鉢の漬物をつまむ。パリポリといい音のするそれは、しょっぱすぎずうなぎのお供に最適な味の濃さ。
ずずっとほうじ茶をすすり、一息ついた。
「はーーー。」
(美味しい、明日からも仕事頑張ろう。)
やっぱり美味しいものはいい。食べると気力諸々が回復する。
もくもくもくもく、最後の一口も大事に食べる。
「ごちそうさまでした。」
全部食べ切れば、そこそこお客さんの入り始めていた。ちょっと早めに出れて良かった。
お会計をして、自分のお土産に骨せんべいを買って帰路に着く。
とある夏の日、彼が宇宙旅行にあたる前の、彼の穏やかな時間。