全然懐いてくれない後輩の黒尾鉄朗をお持ち帰りしてしまう先輩夢主のお話「シちゃう?」
実をいうと、彼の薬指、その輪郭をなぞりながら戯れのように誘ったのは、ほんの出来心だった。
付き合っていた男に「お前ほんとに可愛くないよな」となじられ振られた一ヶ月後のことだった。高校時代、私にだけ刺々しくて生意気で、挙句の果てには「先輩って、可愛くないスよね」と吐き捨てた可愛くない後輩と再会したのは。
「黒尾さん、この度は大変助けていただきまして、有難う御座いました。契約締結から始まり何から何までお世話になって」
「いやいや。改まってやめてくださいよ。こちらこそ企画以外の相談にも乗ってくださって感謝しています」
いやぁ頭が上がりません。そう続ける男の口はぺらぺら忙しなく動き続けている。日本バレーボール協会との企画。ライセンス契約締結にこぎつけ、コラボ商品販売まで至ったのはついこの間のことだ。今日はその打ち上げである。
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