汝、赦すなかれあなたがたが人を許すのは、許すほどのことが何もないからなのだ
G・K・チェスタトン マーン城の喪主 より
倫敦の街に鐘の音が降り注ぐ。
天を穿つような尖塔に挟まれた鐘楼は傾きかけた日差しをうけてまばゆい。
重厚で圧倒するような建築は、日本の神社仏閣とは規模が違う。
亜双義はこの国の教会を目にする度、自分が異教徒であることを痛感するのだった。
「人々は何を求めて教会に通うのだ?」
隣を行く師に問う。
本来、検事は事件の現場を調べる身ではない。
しかし異国の若人である亜双義が英国の裁判を扱うのに支障がないよう、
できるかぎりのものごとを実際に見せたいというバンジークスの思惑の元
2人は担当事件に関係する場所に赴くことが常であった。
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