水が風邪ひいた時の灰の話風邪をひいた水。鼻声で苦しそうに話す。
水「ごべんな…今日……デード……だっだのに……俺……かぜなんで…ひいで…」
灰「気にすんな。つーか無理して喋んなよ。薬とか氷枕持って……」立ち上がり、リビングへ取りに行こうとする灰。すると水が力なく灰の服を引っ張った。
水「い、行がない…で……っ」水の頬は熱で真っ赤に染まり、目は涙で潤んでいた。灰は思わずドキッとしてしまう。しかし煩悩を振り払い
灰「どこにも行かねぇよ。でも早く楽になって欲しいから……１分で取ってくるからよ、少しだけ待っててくれるか？」優しく頭を撫で諭す。水は涙目で灰を見つめる。あまり目を合わせていると自分が水に何をするか分からないので灰はパッと目を逸らしダッシュでリビングへ向かった。水がケホケホと咳き込んでいると、灰が必死にリビングで探し物をしている音が聞こえてくる。ドカッとかバキッとか。灰は急ぎすぎてどこかへ足をぶつけ「って！」と声を上げているが水の意識は朦朧としていたのでそこまで気が回らなかった。１分後、灰が戻ってきた。
灰「体、起こせるか？薬と水だけ飲んどけ」
水「……ん」体を起こすのを手伝おうと水に触れると服越しからでも分かるくらい、普段より熱い。灰は心配になった。息が上がり、起き上がるのも無理そうなので
灰「……お、俺が飲ませようか？」とドキドキしながら聞く。決して下心からでは無く、以前どこかでそういう飲ませ方があると聞いたことがあったので実行しようとしたが、心の中では弱って抵抗できない時に漬け込んで邪な気持ちからやろうとしてるんじゃねぇか？と悪魔の声が響いた。その声を必死に振り払っていると、水が軽く口を開けた。意を決して灰が薬と水を口に含み、ゆっくりと水に近づく。そのまま口付けをするように、水の口に薬と水を流し込んだ。水はコクコクとそれを飲み干した。口の横から水が少しこぼれてしまったが、灰はそれを拭ってあげた。その後、顔と首元の汗を拭い、持ってきた氷枕を頭にしいてやった。
灰「これで少しは平気だろ。こんな事しか出来なくて悪いな」水の頭を優しく撫でる。
水「りょう…へ……」
灰「ん？」
小さな声で力なく呼びかける水。灰はよく聞こえるように耳を近づけた。
水「大好き……」
灰「っ！///」付き合ってもう長いこと経つのに、水の不意打ちから発せられる言葉に慣れることはない灰。ドキドキしながら水を見ると、すーすーと寝息を立てて寝ていた。その寝顔にホッとするも、自分の下半身が元気になっているのに気付く。
灰「チッ。テメェが元気になってどーすんだよバカ……」水が完全に寝つくまでしばらくその場でおさまるのを待った。待っている間、他のことを考えていると、ふと自分が幼い頃風邪をひいた時のことを思い出した。
灰(風邪ひくと体力奪われちまうから……何か少しでも胃に入れといた方がいいよな……何がいいんだろう)スマホで調べ始めると、喉に流し込みやすいものが良いと分かった。
灰(ヨーグルト、ゼリー、スポドリ……あ、お粥なんてどうだ？)作った事はないが、水のために作ってみたいと思った灰。さっきの水の可愛い反応をみるに体調不良のせいで心細くなっているだろうから、ちゃんと寝ている事を確認しキッチンへ向かった。お粥を作るのに必要な材料をチェックしていると、冷蔵庫に卵がない事に気付いた。卵無しでも食べれるだろうが、味気ないものになってしまいそうだったので、ゼリーやスポドリを買いがてら買い物に行くことにした。水が寝ているのを再び確認し、急ぎ足でスーパーへ向かう。目的のものを探していると、野と西に遭遇した。
灰「ゲッ、お前ら」
西「ゲッとはなんだ、灰崎」
野「やぁ、灰崎君。買い物かい？水神矢君に頼まれたのかな？」
灰「…違ぇよ。アイツ今風邪ひいてて…何か食べれそうなもん買いに来ただけだ」
野「それは心配だね。あ、スイカなんてどうかな？水分もとれるし、いいんじゃない？」
西「野坂さん、スイカはちょっと…💦灰崎、お粥とかゼリーとか、喉に流し込みやすいものにしておけ。風邪の時は味が分からないから、味まではこだわる必要がないとは思うが……」
灰「そうか、風邪だし……凝ったもん作っても味までは分かんねーよな」少し残念そうにする灰。
西「？まさかお前、自分で作ってあげようとしていたのか？」
灰「あ？だったらなんだよ」
西「そうか……だったらより良いものを作ってやらないとな。味までは分からなくてもお前の想いは届くはずだ。頑張れよ」
灰「フッ。だといいけどな。アドバイスありがとよ」
野「なんかいい感じにまとまってるみたいだけど、西蔭、僕スイカが食べたいな」
西「野坂さん、分かりました。今の季節だとカットされたものしか置いてないかもですが……」
野「いいよ。西蔭とならなんだって美味しいし」
西「…っ！///わ、分かりました……」
幸せそうに果物コーナーへ向かう2人を見て、自分もああやって素直な気持ちを水に出せたらいいのにと思う灰。我に返り、家で水が待っていることに気付くと急ぎ足で買い物を済ませ、家に帰った。
灰「ただいま…ってまだ寝てるか」
手を洗い寝室を覗くと、なんと水がいなくなっていた。水どころか布団もなくなっていた。
灰「あ！？ど、どこ行った…！？」灰が慌てて寝室を出ると、リビングのソファの上で布団を被り、うずくまっている水を見つけた。
灰「バカ…！びっくりしたじゃねぇか…！こんなとこで何やってんだよ…」ホッとして水に近づくと、水が大粒の涙をボロボロ流しているのに気付いた灰。ギョッとして慌てて隣に座る。
灰「えっ、ど、どうした！？悪い…強く言いすぎたか…？」
水「お前が……いなくなったかと…思った……」布団を被ったまま灰に抱きつく水。灰はドキドキしながら手を伸ばし抱きしめ返した。
灰「い、いなくなるわけねぇだろ。ちょっと買い物に行ってたんだよ。アンタは薬飲んでからしばらく寝てたけど……熱は……まだあんまり下がってねぇな」水の額に手を当て、眉間にしわを寄せた。
灰「そうだ、体調はどうだ？何か食えそうか？」手元に買い物袋を近付けると、目の前の机に買ってきたゼリーやスポドリを並べていく。
灰「本当はお粥でも作ろうと思ったんだけどよ…食欲ないなら無理して食うこともねぇと思ってな。他にもゼリーとか簡単に食べれそうなもん買ってきたし……」
水「お粥…食べたい……作って…くれ」
灰「……無理してねぇか？」
水「食べれる…」話すのが辛いのか、カタコトで喋る水が可愛いと思う灰。
灰「分かった。作ったら持って行くから、それまで寝てろ」
水を布団ごとお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。優しく横たわらせると氷枕を取り替え、寝室を出た。早く食べさせてあげたくて、早速調理に取り掛かる。
数十分後、初めてにしては味付けもいい感じのお粥が完成した。寝室へ持っていくと、水は目を開け灰を見つめる。
灰「出来たけど、食えそうか？」
水「りょ…へ……が、食べさせて……」
熱でまだ意識が朦朧としているせいか、いつもと違い自分に甘えてくれる水にドキドキしっぱなしの灰。下心を振り払って、スプーンにお粥を掬うと、フーフーと息をふきかけ熱を冷ました。
灰「ほら、口開けろ」灰がスプーンを差し出すと、小さく口を開けスプーンを受け入れる水。少し咀嚼し、飲み込んだ。
水「美味しい…」水は嬉しそうに笑顔で言った。灰もとても嬉しくてホッと胸を撫で下ろした。
灰「良かった。まだあるから……食えるだけ食っとけよ」
次のひと口を用意し、水に差し出す。水はまたそれを受け入れた。
食べ終わると水はすぐに寝たので、灰は安心し片付けに取り掛かった。するとスマホにメッセージが来ていた。
灰「西蔭……？」
西『灰崎、水神矢の具合はどうだ？お粥は作れたか？あとさっき言い忘れたが、ショウガを少し入れるとさらに良くなるぞ。水神矢にお大事にと伝えてくれ。』
灰「ハハッ。ショウガか……今度入れてみるか……ってもう“今度”がないといいけどな」
今日の水は風邪のせいか普段とは異なる可愛い表情をたくさん見せてくれたけれど、やっぱり苦しそうな顔は見たくない。それにあんなに可愛い顔をしておいて体調不良のせいでおあずけだなんて……。今日は必死に自分の欲望を抑えつつ、その分水が治ったら思いっきり愛し合おうと誓った灰だった。