「修学旅行」の🦈🐬フロイドの学年での修学旅行の行先は沖縄になった。
沖縄に行った事のないフロイドは着く前までは上機嫌だったが、いざ沖縄に着くとその機嫌は急降下し、苛々が積もっていく。
「あぢぃ...オレ帰る」
泊まっている宿でエアコンをガンガンに付け、フロイドはぐでんと身体を壁に預けて嫌そうな顔をしていた。
他の同室の生徒達はカタカタと震えているが機嫌の悪いフロイドに話しかけられずジャージを着込む。
沖縄の歴史を学ぶ為に資料館に連れてこられてもフロイドは興味が一切興味が無く、気だるげに物を見たりしていた。
そんな中フロイドが1番興味を示したのは海での自由行動だった。
透き通った海に珊瑚礁が見える綺麗な海。
他の生徒達は水着に着替え海の中に入り泳ぐが、フロイドは何故か泳ぐ気にはなれなかった。
”この姿で泳ぐのは楽しくない”
そう思ったからだ。波風がフロイドの片方のピアスを鳴らす。これはある雑貨屋でセール品にあったピアス。片方だけしかないという事で売れ残っていたが、フロイドはそのピアスを見た瞬間手に取りレジにて購入していた。
そしてすぐさまピアスホールで右耳に穴を開けるとそのピアスを着ける。
鏡で確認するとそのピアスはフロイドの為に残っていたかの様にしっかりと馴染んでいた。
砂浜を歩いていると何やら洞窟らしき場所を発見したフロイドは好奇心でその中に入ってみた。そこはただの空洞な場所で強いて言うならば足場が洞窟の大きさに対して3分の2程程で残りは海水が満ちていた。
フロイドは靴を脱ぎ座り込むとちゃぽんと脚を海の中に入れてみる。
「んー...やっぱりしっくり来ねぇ...」
顔を顰めさせながらフロイドは脚を動かし水飛沫を上げる。
(こんな脚では海の中では生きる事なんて出来ないし稚魚の時ですぐに死んじゃう)
「あれ...？オレ今何でこんな事思ったんだろ」
フロイドは首を傾げた。何故海の中で生きる事を前提に考えていたのかがわからなかったからだ。
そうしている内に自由行動の時間が終わろうとしていた。フロイドは名残惜しそうに脚を海から出し、軽く水気を取るとピアスを揺らしながらその洞窟から出ようとした時。
「フロイド」
「っ」
海の方から自分の名前が呼ばれ、反射的にフロイドはそちらを向く。
そこには御伽噺に出てくる可愛らしい人魚の様な人魚ではなく、顔から下がほぼ魚の様な姿をした自分と瓜二つの顔をした人魚が顔を覗かせていた。
「やっと見つけましたよフロイド」
”さあ、帰りましょう？”
そういいながら両腕を広げてフロイドが来るのを待っている人魚にフロイドはふらふらと近付いていく。人魚に近付く度に脚に違和感を感じずきずきと痛みが出てくる。フロイドら小さい頃歩く度に痛みがあり、病院で調べてもわからなかった。大きくなるにつれ脚の痛みは無くなっていったがまた同じ痛みを味わう。それでも脚を動かすのをフロイドは止めなかった。
そして両腕を広げて待っている人魚に向かって勢い良く抱き着いた。
「”ジェイド！”」
フロイドの口は初めて聞いた筈の名を叫んでいた。ジェイドと呼ばれた人魚は瞬きした後にふわりと微笑んだ。
「おやおや、覚えていてくれたんですね」
「んーん、今思い出しただけ。ジェイドが迎えに来てくれるだなんて随分と積極的だね♡」
フロイドが嬉しそうにジェイドの唇に軽く口付けると、ジェイドは頬を軽く赤らめ視線を逸らす。
「貴方が居ないと僕の世界は退屈なんですよ」
「はいはい、わかったから♡」
フロイドはもう離さないとばかりにジェイドを抱き締めるが、1つの問題に気が付いた。
「あ、オレ今回人間じゃん...どうやってジェイドと海に帰ろう...」
悲しげに言うフロイドにジェイドは1本の小瓶を取り出す。
「ちゃんとアズールから人魚になる薬を預かってますよ。対価はアズールの左腕として働く事との事でした」
「ほんと！？アズールやっさしー！会ったら抱き締めなきゃ」
ジェイドから小瓶を受け取りフロイドは中身を一気に呷る。
すると2本に別れていた脚が1本になり身体は青くなり、手には水かきが生え、耳も変わっていく。
「あはっ、やっと戻れた♡」
フロイドはジェイドの尾鰭に自身の尾鰭を巻き付けるとへにゃりと笑う。
そんなフロイドにジェイドは微笑みかけ手を差し伸べる。
「行きましょうフロイド。アズールが首を長くして待ってますよ」
「はーい」
そうして二匹の人魚はぽちゃんと音を立てながら潜っていった。
ｰｰｰその学校で修学旅行中に一人行方不明者が出たと報道された。探索は続けられているが未だ痕跡すら見つかっていない。